三酸化二ヒ素(Arsenic trioxide、ATO)は毒性があり、また環境汚染も問題となっている。一方、ATOは急性前骨髄性白血病の治療薬として使われている。この白血病では染色体異常により、異常な蛋白質PML-RARαが生じるが、それをATOが分解する。ATOの副作用は心毒性以外に中枢神経毒性があるが、その機序は不明である。今回、ラットに5mg/kg ATOを腹腔内投与の6時間及び48時間後に大脳、心、肺、肝を採取し、タンパク質動態、DNA損傷を評価した。また、神経系由来のSH-SY5Y細胞に1、3、10μMのATOを24時間暴露し、同様に解析した。ラットの心、肺、肝ではPMLに有意な変動はなかった。48時間の脳ではPMLの150kDa以上のisoformで変動し、ATR及びChk1noリン酸化を認めた。SH-SY5Y細胞では、48時間後に8-OHdG染色陽性細胞の増加があり、DNA損傷が推定された。24時間後では3μMを最高にChk1のリン酸化と濃度依存的にcleaved caspase 3の増加を認めた。ラット脳組織のTUNEL染色ではアポトーシスは確認できなかった。以上のことから、ATO投与48時間のラットの脳にDNA損傷が起こされ、そのチェックポイントとしてATR-Chk1経路が働いていると考えられた。脳組織ではATOが起こすDNA損傷に対してATR-Chk経路だけでなく、PMLも変動していた。アポトーシスが見られないことはDNA損傷が修復されたからと考える。SH-SY5Y細胞では、Chk1のリン酸化を認めるが、ATOによるアポトーシスを防げなかったと考えた。ATO投与後、比較的早期にラット脳組織に達し、DNA損傷を起こし、また、PML変動も起こることが示された。
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