薬毒物による事案において、その薬物が死因にどのように、またどれだけ影響したかを検討することは法医実務上重要であるが、数多くの薬毒物の内その毒性機序が明らかなものはごくわずかであり、また複数の薬物が相乗的に作用した際には、これらがどのように死因に寄与したかを推測することは大変困難である。 そのため薬毒物の毒性や機序をより簡便にかつ薬物間の毒性を比較する手法の確立が法医学上求められている。 そこで本研究ではターゲットメタボロミクスの手法を用いて、薬毒物によって変動するシグナル経路を特定し毒性機序を検討、さらに変動する代謝物の増減を数値化することにより毒性を評価することで、薬物間の毒性比較を行い、法医鑑定に有用な新規毒性評価法の確立を目的としている。 昨年よりガスクロマトグラフGC-MS/MSでのターゲットメタボロミクスの解析法の構築が行えたことから、覚せい剤メタンフェタミン、覚せい剤と構造類似物であり覚せい剤原料に属するノルエフェドリン、その他ベンゾジアゼピン系睡眠導入剤や向精神薬など種々の薬物におけるメタボローム解析を実施した。 その結果、各薬物において特徴的な代謝物の変動がみられ各薬物の毒性機序の検討に使用できる可能性が示唆された。興味深いことに覚せい剤メタンフェタミンと構造類似物ノルエフェドリンでメタボローム解析を実施し、多変量解析により分類できるかを検討したところ、構造類似物間においても明確に代謝物の変動パターンから分類することが可能であった。 そのため今後は構造類似物が多く存在し、作用機序の多くが未だ不明である危険ドラッグ成分の毒性機序解析に本解析法が利用できることが期待される。
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