研究課題/領域番号 |
16K09206
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研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
南方 かよ子 浜松医科大学, 医学部, 特任研究員 (70115509)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ジフェニジン / 凍結切片 / mass spectrometry / MALDI / 脂肪組織 / 標準添加法 |
研究実績の概要 |
組織切片中のジフェニジンのMALDI-MS(/MS) による直接分析 目的:近年, 合成カンナビノイド類やカチノン類の危険ドラッグが蔓延したため、それらは包括規制された。そのためかそれらに属さない薬物が検出され始めた。ジフェニジンもそうした薬物の1つであり, 2014年から報告され始め, 当教室でもジフェニジン中毒と考えられる解剖例に遭遇した。組織切片を用いたジフェニジンのMALDI-MS(/MS) による直接分析についての報告はまだなされていない。今回はジフェニジン測定の最適条件の検討を行い, 今後の組織切片からの他の薬物検出への適用を目的とする。 方法と結果:解剖時に摘出された種々の組織から径5mm程度の組織塊を採取し, -80度で凍結保存した。MS測定に際し, その塊から20 μm厚の凍結切片を作成し, MALDI-MS測定用のステンレスプレート上に20枚程のせ, 接着させた。それをシリカゲル入りのパックに密閉し, 室温に1晩放置した。内部標準(imipramine) は組織切片をのせる前にプレート上に添付した。次に組織表面にmatrix溶液をエアブラシで塗布した。乾燥後 reflector type-TOF-MS, QSTAR Eliet Hybrid (AB SCIEX) にてMSとMS/MSを測定した。司法解剖に伴った組織中の薬物検出は公的に要請されている。組織切片の直径は5mm程度とした。matrix剤としてα-cyano-4-hydroxy cinnamic acid (CHCA)を用いた場合, CHCA 10mgをアセトニトリル:水 (1 ml : 0.2 ml) に溶解した溶液が適当であった。脂肪中のジフェニジンは他臓器よりも非常に高濃度であった。 以上の結果をForensic Toxicology (2016) 34:151-157 にて報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
28年度に予定していた「(1)測定の最適化、(2) MALDI-MS/MS装置のソフトの改良を行うことにより、通常の装置では不可能であった異なる2種類のprecursor ionからの各々のMS/MSを可能とする、 (3)大きい直径のwellを使用することにより精度の向上を図る」の全てを実行することができた。それによりジフェニジンの脂肪・脳・心臓・腎臓・肝臓組織の定量が可能となりForensic Toxicology (2016) 34:151-157 にて報告することができた。
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今後の研究の推進方策 |
1. 市販されている薬剤の致死濃度はマイクログラム/ml程度であるのに対し、危険ドラッグはその1/1000に相当する1ng/mlという非常に低濃度での死亡例も報告されているが通常のGC-MSでは検出できない。危険ドラッグの死因への関与は重要な検査案件である。MALDI-MS/MS法およびLC-MS/MS法を駆使した超高感度な同定と定量法の開発を目指す。 2. 種々の薬剤の代謝物についてはあまり研究がなされていない。法医学では解剖検体を扱うことができるので原因物質のみならず、代謝物も検出することができる。代謝物の中には薬理活性を持つものもあり、これらは死因や副作用に関与してくるので超高感度な同定と定量法の開発を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
1. 申請時には組織切片作成装置が約1,400,000円であったが、それよりも高性能の新装置が約1,000,000円で入手できた。 2. 旅費として400,000円申請していたが、他の予算から支援を受けることができたので使用しなかった。 3. 上記の合計約800,000円の一部を物品購入に充てたので、残り659,702円を次年度使用とした。
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次年度使用額の使用計画 |
危険ドラッグ類の標準品はアメリカのCayman社が主として販売しているが、10mgが数万円と非常に高価である。また、指定薬物とされている場合にはその取り扱い手数料だけで10万円以上余計に必要である。法医学の解剖検体中の危険ドラッグの同定・定量には標準品は必須である。今後危険ドラッグの代謝物についても研究を発展させてゆく予定であるのでそれらの購入に次年度使用の659,702円を充当する予定である。
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