低体温症の病態生理及び死後の遺伝子及び蛋白質発現動態の解明を目的として、低体温症モデルマウスを作製し、HSP70の発現解析を行った。低体温症モデルマウスは神戸大学動物実験施設による承認を受けて作製し、死亡時の温度環境により3群に分類した(寒冷群1:氷上にて継続放置、寒冷群2:氷上に放置し、直腸温が30℃した後は37℃環境で放置、常温群:37℃環境で継続放置)。 寒冷群1は、1時間半ほどで呼吸の停止が確認された。寒冷群1の呼吸停止後、寒冷群2及び常温群のマウスと共に頸椎脱臼により安楽死させた。直ちに心臓、肺、肝臓、左腎臓及び胃を摘出し、病理検査及び遺伝子、蛋白質発現解析を行った。凍死所見でしばしば見られる、消化管における点状出血斑は、マウスの胃においては認められなかった。HSP70を標的とするリアルタイムPCRによる発現量検討では、寒冷群1、2においては、HSP70の発現量は低く、ヒト剖検試料と同様の現象を示した。また腎臓について、抗HSP70抗体を用いた免疫組織化学染色を行ったが、尿細管の一部で若干の染色性を示したものの、ヒトで見られた糸球体上皮細胞の核が強染するような染色態度は認められなかった。2種の抗HSP70抗体を用いて確認したが、糸球体で陽性像が得られなかったことは、寒冷暴露に対するマウスの生理反応がヒトと異なる可能性も示唆された。 また解剖時に右腎臓を腹腔内に残し、死後変化を受けさせたのち経時的に採取し、超生体反応に関する実験に供した。個体死から細胞死に至るまでの超生体反応を解明するために、死亡直後、30分、6時間、24時間、48時間室温放置した後に腎臓を採取し、HSP70の遺伝子発現の変化をRT-qPCRにより検討したところ、30分放置では0時間と同等もしくはそれ以上の発現量を認め、その後時間経過に伴い発現量が減少することが明らかとなった。
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