研究課題/領域番号 |
16K09211
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
笹尾 亜子 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 助教 (80284751)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 組換え抗体 / 薬毒物スクリーニング / フルボキサミン / 一本鎖抗体 / 法医中毒学 |
研究実績の概要 |
法医学実務において、薬毒物を簡便・迅速にスクリーニングできる免疫学的検出法は有用である。我々は、遺伝子工学的技術の利点を活かした抗薬物抗体の作製と薬物検出法構築に取り組んでいる。本課題では、二種の抗薬物抗体をモデルとし、薬物スクリーニングの目的に応じた最適な抗体を分子レベルでデザインし、機能改変した新しい抗体を用いた薬物検出法を構築する事を目的とする。本年度は、フルボキサミン(FLV)をモデル化合物として、薬物検出法に用いる蛍光免疫測定素子Quenchbody(Q-body)の最適な条件について検討した。 1)Q-bodyの調製 Q-bodyの前駆タンパク質(scFv)を用いて、以下4種の蛍光色素で標識した(ATTO520-C2-maleimide:ATTO520、5(6)-Tetramethylrhodamine-C5-maleimide:TAMRA-C5、5(6)-Tetramethylrhodamine-C2-maleimide:TAMRA-C2、Rhodamine6G-C5-maleimide:R6G)。還元したscFvに色素を添加し、1時間反応させた。その後、FLAGタグ精製にて余分な色素を除去した。SDS-PAGEを行い、蛍光イメージスキャナーにてQ-bodyの精製を確認した。また、ELISAにて抗体活性を確認した。本調製法にて各色素標識したQ-bodyは十分に精製され、何れもFLVに対する十分な抗体活性を示した。 2)Q-body の抗原応答性 1)で調製したQ-bodyを用いて、FLV添加による蛍光変化を調べた。各Q-bodyの蛍光上昇率は、R6G、TAMRA-C5、TAMRA-C2の順に 1.5、1.3、1.2、倍であり、ATTO520では0.01 mM FLVでも蛍光上昇が認められなかった。R6Gは最も脂溶性が高いため、抗体分子(VH-VL)間によくクエンチングし、その結果として高い蛍光上昇を示したと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本課題の研究目的は、二種の抗薬物抗体をモデルとし、薬物スクリーニングの目的に応じた最適な抗体を分子レベルでデザインし、機能改変した新しい抗体を用いた薬物検出法を構築する事である。本研究では、二種の抗薬物抗体の抗原認識に重要な部位の検索をX線結晶構造解析等によって行い、その後抗薬物抗体の改変体を作製、最後にQuenchbody法による各薬物の検出法を構築する事を予定していた。しかし、薬物―抗体タンパク質複合体の結晶作製に時間がかかっている事、また熊本地震後に分析機器が使用できない状況があった事から、Q-body法による薬物検出法の構築を先行して実施してきた。 平成28年度には、各薬物に対する抗体遺伝子を挿入可能なQ-body発現ベクターの構築を行い、調製法を確立した。また、平成29年度には調製したQ-bodyについて、最も高い抗原応答性を示すリンカー長や色素に関する知見を得た。今後は、これまでに作製したQ-body発現ベクターに抗原認識部位遺伝子を挿入する事で新たな抗原に対するQ-bodyを作製できるものである。また、FLVに対する各種Q-bodyの蛍光応答性に関する知見は今後の参考データとなるものである。しかし、今後の検討項目が多いため進捗状況としては「やや遅れている」と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、これまで実施できなかった項目として1)薬物に対する抗体タンパク質の熱力学的解析と、2)薬物-抗体タンパク質複合体のX線結晶構造解析について検討を行う事を予定している。方法については下記のように行う。 1)薬物-抗体タンパク質複合体のX線結晶構造解析 各抗体タンパク質と薬物との結合様態をX線結晶構造解析にて調べるため、抗薬物抗体と抗原薬物の複合体の結晶化を行う。抗薬物モノクローナル抗体からパパイン消化にてFabを調製し、各種のクロマトグラフィー(アフィニティ、ゲルろ過、陰イオン交換)を行って高純度に精製する。得られたFabは、各種濃度の薬物と混合して複合体を調製する。結晶化は蒸気拡散法で行い、結晶化条件の検索はFab結晶化に関する既報を参考にし、結晶化スクリーニングキットの使用も考慮する。なお、得られたタンパク質結晶のX線構造解析は、本学薬学部附属機器分析施設のタンパク質X線回折装置と高エネルギー加速器研究機構のPhoton Factory(PF)にて行う予定である。構造解析の結果については、連携研究者と詳細に議論して考察する。なお、結晶構造解析がうまく行かない場合に備えて、3次元構造のモデリング解析も実施する。 2)薬物に対する抗体タンパク質の熱力学的解析 各抗体タンパク質と薬物の結合反応について、Biacore T200を用いた熱力学的相互作用解析を行い、その結合に重要な領域(薬物側の化学構造、タンパク質側のアミノ酸)を調べる。具体的には、卵白アルブミンと各薬物の複合体をBiacore専用のセンサーチップに固相化し、これに対する抗体の結合・解離反応における熱力学的パラメーターを算出する。また、各薬物の類似化合物についても同様の検討を行い、抗原-抗体反応における各部位の役割・重要性を調べる。本検討は連携研究者と詳細に議論した上で実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
タンパク精製用クロマトシステムの購入が遅れている事や、研究成果報告のための論文執筆に時間をかけたため、消耗品の購入が少なく次年度使用額が生じている。 本年度は、クロマトシステムの購入とタンパク質結晶化プレートやBiacore T200専用のセンサーチップ、各種クロマトグラフィー、DNA調製、大腸菌培養、その他の実験に必要な試薬及びディスポーザブル器具類等の実験器具を物品費で購入する。また、研究成果発表や研究打ち合わせのために旅費を使用する。さらに、本研究の成果報告を行うための英文論文の校閲費と論文投稿料をその他の経費で支出する予定である。
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