研究課題/領域番号 |
16K09216
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
石川 隆紀 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 教授 (50381984)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 低酸素 / 虚血 / 膵臓間質内出血 / インスリン / グルカゴン / 培養細胞 / mRNA / 法医病理学 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,「法医剖検例における膵臓被膜下・間質内出血の意義と膵臓関連ホルモンとの関連性」について「低酸素・虚血」の観点から解析することにある.本研究結果は, 法医学分野における窒息死診断上の意義のみならず,低酸素・虚血状態における膵臓病態生理をあきらかにする基礎的資料になるものと考える.これまでの検討として,肉眼的および組織学的に膵臓の被膜ないし間質内において,出血が確認された症例は窒息で多く,その他死因群に比較して,高値を示した.その他の群間に統計学的に有意差は認められなかったが,心臓死では窒息死と同じ傾向が認められた.組織学的に窒息死では組織破壊例が多く認められた.窒息死群内で短時間死亡と死亡までに比較的時間がかかった症例とを比較したところ,比較的死亡までに時間がかかったと推測される群では,広範囲組織破壊像が認められたのに対し,短時間死亡例では巣状に組織破壊が認められた.膵臓ランゲルハンス島内におけるインスリンおよびグルカゴン陽性細胞の比率において,死因間の有意な差は認められなかったものの,右心臓内血液を用いたインスリン測定の結果,窒息・急性虚血性心疾患および溺死例において高値を示したものの,グルカゴンにおける死因間の差は明らかではなかった.膵臓の培養細胞を用いて5%低酸素下で培養し,インスリンおよびグルカゴンをタンパク質レベルで計測したところ,低酸素下10分でインスリンは高値を示し,その後低下する傾向がみられた.グルカゴンに変化は認められなかった.膵臓培養細胞中のインスリンおよびグルカゴンのmRNAレベルの変化は,インスリンで測定したところ,タンパク質同様,低酸素下10分で高値を示し,その後低下する傾向を示し,グルカゴンの変化はほとんど認められなかった.低酸素下10分における膵臓培養細胞の電子顕微鏡学的検査では,ミトコンドリアの膨化の所見が認められた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
法医解剖・鑑定において窒息の診断は,急性虚血性心疾患などの内因性急死例との鑑別において重要である.一方,低酸素/虚血の病態生理について,様々な領域から検討されているが,低酸素/虚血病態における膵臓の生理学的作用についての研究報告は極端に少ない.平成28年度の研究計画は,①剖検例における膵臓被膜下・間質内出血の死因別・受傷後経過時間別発生頻度の調査,②膵臓を中心とした副腎などの各関連臓器の病理組織および免疫組織学的変化について調査する,③剖検における血中関連ホルモンおよび血糖値の変化を検討することにあるが,一部の病死組織検索および血糖値の変化を除き,研究は完了していること,またすでに次年度以降の研究よていであった,④膵臓培養細胞を用いた低酸素状態および各種薬物における影響について膵臓関連ホルモンの変化・微細形態変化などの調査は,すでに施行を開始しており,低酸素状態におけるインスリンの変化がわずか10分程度で認められる,一方グルカゴンの変化は認められないこと,低酸素環境下では膵臓培養細胞の微細構造変化としてミトコンドリアの膨隆所見が認められることなどをすでに発見し,これら結果は国際学会および国内関連学会において報告する準備は整っており,研究計画は現在まで,順調に経過しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究は概ね順調に進んでおり,すでに来年度の研究の一部にまで研究を進めることができている.一方,問題点として,症例数が当初目標としていた200例の半分程度までしか進行していないこと,膵臓を除くその他臓器における病理組織学的検討が未だなされていないこと,低酸素下におけるインスリンの上昇が,ストレスに伴う血糖値の上昇に依存している可能性があるものの,低酸素と血糖値の関連について未だ調査ができていない.最も進行が遅れているものとして,低酸素下における膵臓の被膜下・間質になぜ実質傷害をほとんど伴わない出血が形成されるのかについて,我々は,未だ検討ができていない.そこで,今後は,膵臓以外の臓器における病理組織学的検討,急激な低酸素下における血糖値とインスリンとの関係,さらには,実質傷害を伴わない膵臓被膜下・間質内出血の出現原因まで生化学的・分子生物学的検討を中心に進めていく予定である.
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