研究課題
本研究の目的は,法医剖検例における膵臓の被膜下および間質内出血の意義とその病態生理について検討することにある.その結果,膵臓における被膜下・間質内出血は,急性窒息死群・遷延性窒息死群および溺死群において,高頻度に出現することが明らかとなった.膵臓は,内分泌器官と外分泌器官の両方が存在する毛細血管が発達した臓器であることから,低酸素・虚血状態において,毛細血管傷害が生じ出血する可能性が推測された.実際に病理組織学的検討を施行したところ,遷延性窒息死群を中心に,びまん性に組織脱落像が確認され,血管傷害に起因しているものと考えられた.さらに,本研究では,剖検例の右心血中のインスリンおよびグルカゴン濃度を測定したところ,インスリンは,急性窒息死群において高値を示した,一方,遷延性窒息死群では,低値を示す結果となった.グルカゴンは,死因間の差はなかったものの,いずれも臨床基準値よりも高値を示した.ヒト膵臓インスリン培養細胞を用いて,インスリンのmRNAの変化について検討したところ,5%低酸素状態10分で高値を示した.また,低酸素状態のインスリン分泌培養細胞を電子顕微鏡で観察したところ,低酸素状態10分において,ミトコンドリアの変化が顕著に確認された.さらに,急性低酸素に伴いインスリンが高値を示していたことから,血糖値を測定したところ,高値を示しており,急性死に伴うストレスからの血糖値の上昇に対するインスリンの反応と考えられた.それら結果から,低酸素状態による膵臓組織内毛細血管傷害,また急性低酸素ストレスによる血糖増加に対する抑制反応としてのインスリン関与の可能性が示唆された.本研究結果は,法医学における窒息の診断意義のみならず,急性低酸素状態における微小血管傷害および内分泌機能への影響を理解する上で,重要な基礎的資料になるものと考えられた.
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