研究実績の概要 |
脳外傷による脳機能障害のメカニズムの解明は、法医学、病理学の実務上非常に重要である。我々は老化細胞のマーカー「老化関連ベータガラクトシダーゼ」(以下β-gal)を基質 X-gal で染色し、損傷部位直下深部が特異的に染まることを実証した。よってβ-galが脳損傷の診断マーカーとして有用と見込まれる。しかし、脳損傷がなぜβ-galを活性化するかは今までに研究報告がなく、そのメカニズムはわかっていない。我々は細胞老化経路の細胞周期に関する遺伝子の発現を解析し、そのメカニズムを解明したい。 実験方法:1.動物実験。①マウスの外傷性脳損傷を作製。②切片標本を作製③RNAを抽出。2.発現解析。①酸性β-gal測定キットを用いてβ-galを染色し、ImageJを用いて半定量解析した。3.免疫染色及びRealtime PCRを用いて細胞周期マーカー及び細胞老化マーカーの発現を半定量解析した。 結果:脳損傷マウスでは大脳の損傷側に損傷後4、7、14日目に老化関連酸性β-ガラクトシダーゼの発現が有意に増加した。細胞周期のG1期からS期に発現するCyclin D1およびPCNAは脳損傷後、損傷群損傷側のニューロン、マイクログリアとアストロサイトに発現し、損傷後4日目に有意に増加した。従って、外傷性脳損傷では脳細胞の細胞周期が一旦活性化されることが確認された。細胞周期を抑制し,老化細胞で発現が増加するp16、p21とp53はいずれも脳損傷後4、7、14日目に発現が有意に増加した。従って、損傷4日後、外傷性脳損傷では細胞周期が一旦活性化された脳細胞の細胞周期がアストロサイトはp16経路で、ニューロンとマイクログリアはp53-p21経路によって抑制されることが確認された。外傷性脳損傷では脳細胞に細胞老化が生じていると考えられ、細胞老化の抑制は神経細胞を保護する可能性が示唆された。
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