研究課題
ストレス関連疾患の1つである過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome: IBS)の病態生理は完全には解明されていないが、心理社会的要因、消化管運動機能異常、内臓知覚異常を中心とした脳腸相関の病態がこれまで想定されている。近年、これらの病態に腸内細菌が何らかの役割を果たしていることが明らかになりつつある。しかし、その「脳-腸-腸内細菌軸」におけるIBS病態に特定の腸内細菌種あるいは代謝物がどのように関連しているかについてはよく明らかにされてはいない。一方、人種や生活環境によって腸内細菌叢の構成が異なっていることが知られている。本研究では、我が国のIBS患者の腸内細菌叢とその機能は健常者とは異なるという仮説を検証した。Rome III診断基準を満たすIBS症例と消化器症状を認めない健常者から糞便を採取し、次世代シーケンサーを用いた16SrRNAメタゲノム解析によってV3-V4可変領域のoperational taxonomic unit (OTU) を同定し、Qiimeによる線形判別分析を実行した。症状重症度はIBS severity index (IBS-SI)を用いて評価した。IBS群では健常群と比較して有意にIBS-SI全体スコアの高値を示した(p<0.01)。IBS群では健常者に比較して、1%以上のOTU構成率を有する属レベルにおいてFaecalibacterium とCoprococcus が有意に増加し、Dialisterが有意に低下していた。さらに代謝パスウェイ解析を実行した結果、IBS群は健常群に比較して、アミノ酸代謝の有意な低下が認められた。以上の所見より、我が国のIBS症例においても腸内細菌叢の変化が存在し、腸管内のアミノ酸代謝の変化がIBSの病態生理に何らかの役割を果たしている可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、予定通りのIBS症例ならびに健常症例の募集を実施し、集積したデータの解析を滞りなく実行できた。メタゲノム解析の結果、IBSにおける腸内細菌叢とその機能の特徴を明らかにできた。
平成31年度は、計画通りに引き続き被験者の募集を実施し、腸内細菌のIBS症状、心理社会的因子、消化管機能それぞれに果たす役割を評価して、ストレス関連疾患のIBS病態メカニズムを詳細に解明する方針である。
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