研究課題
本研究計画の目的は我々が同定した、筋衛星細胞発現遺伝子R3hdmlの機能解析を通して、骨格筋の分化・再生メカニズムの理解を深め、サルコペニアの新たな介入方法開発の為の研究基盤を確立することにある。計画している具体的な研究項目は以下の事項である。① R3hdml KOの骨格筋における表現型解析を通じて骨格筋分化機構の理解を深める。②骨格筋の再生メカニズムとR3hdmlとの関連を解析する目的で、R3hdml KOマウスに加齢、筋障害、肥満を惹起した際の表現型を野生型と比較する。さらにそれぞれのモデルから筋衛星細胞を単離し、増殖・分化能を野生型と比較検討する。③ 治療応用へと繋げるために、R3hdmlを筋肉に過剰発現したさいに、筋障害や肥満における骨格筋に対する効果を解析する、等である。本研究はマウスを用いたin vivo の検討と単離細胞を用いたin vitro の研究に大きく分けることができる。【1. 生理学的な条件下におけるR3hdmlの発現、骨格筋の発達、機能の解析-in vivo-】これまでの検討では生後20週のR3hdml KOマウスの骨格筋重量は野生型に比し有意に軽いことを明らかにしている。本年は生直後、生後14週、1か月、半年、1年、2年における骨格筋重量、筋組織 (大腿四頭筋、腓腹筋)の変化をH&E染色で検討し、野生型に比してR3hdml KOマウスでは骨格筋の分化が遅延していること明らかにした。【2. 筋障害・再生モデルにおけるR3hdmlの発現、骨格筋の発達、機能の解析 -in vivo-】野生型とR3hdml KOマウスを用いて、10mMのCTX (0.9% NaCl溶液100μl)を腓腹筋に注射を行い、経時的な組織学変化、遺伝子変化を検討した所、R3hdml KOマウスでは骨格筋の再生が遅延していることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
本年度は計画通りにR3hdml KOの骨格筋における表現型を明らかにすることができた。
計画書に則り、平成29年度以降はin vitroの実験を下記の実験を皮切りに進める。【3. R3hdml欠損による筋衛星細胞に対する影響に関する解析 -in vitro-】定常状態からの細胞の回収: 野生型ならびにR3hmdl KOマウス骨格筋から筋衛星細胞をCD31- (内皮細胞マーカー), CD45- (汎血球マーカー), SM/C-2.6+ (衛星細胞マーカー)を指標に、筋衛星細胞をフローサイトメトリーを用いて回収して、その増殖能・分化能を検討する。この検討によりR3hdmlの有無が筋衛星細胞の分化にどのように影響するのかが明らかになる。また間葉系前駆細胞(CD31-, CD45-, SM/C-2.6-)と筋衛星細胞との相互作用がそれぞれの細胞の分化に影響しあうことが報告されており (Nat Cell Biol. 2009)、野生型筋衛星細胞+野生型間葉系前駆細胞、野生型筋衛星細胞+R3hdmlKO間葉系前駆細胞、R3hdmlKO筋衛星細胞+野生型間葉系前駆細胞, R3hdmlKO筋衛星細胞+ R3hdmlKO間葉系前駆細胞との4つの組み合わせでのそれぞれの細胞分化に対する影響を検討する。この検討によって、R3hdmlの骨格筋内細胞間の分化に関する相互作用が明らかとなる。筋障害モデルからの細胞の回収: R3hdmlの欠損による間葉系前駆細胞、筋衛星細胞に対する影響を検討する目的で、2.の筋障害後に筋衛星細胞を上記のようにフローサイトメトリーにて回収して、その遺伝子発現をAffymetrix社のGeneChipもしくは次世代型シークエンサーを用いて検討する。この検討により、筋障害時にR3hdml欠損することによる筋衛星細胞に対する影響が遺伝子レベルで明らかになるとともに、R3dhmlの細胞内シグナルが明らかとなる。
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