研究課題
本研究は、家族単位で調査が行え、かつ、日本人の代表的サンプルと考えられる久山町地域一般住民の65歳以上の高齢者およびその同居家族約2700人を対象に、心理社会的因子、家族機能を調査し、認知症の発症、予後、行動・心理症状への関連を縦断的に検討することを目的としている。平成30年度は平成29年度に収集した2684名のデータを整備し、データクリーニングを行った。本データおよび2012年に収集したデータを用いて、下記の検討を行ったので報告する。地域高齢者において社会的集団の欠如に起因する社会的孤独感および情緒的愛着の不足に起因する情緒的孤独感と認知症の関連を検討した報告は少ない。2012年に福岡県久山町の認知症調査を受診した65歳以上の住民で、認知症がなくかつ孤独感の評価を行った対象者のうち5年後の2017年に認知症調査を受けた952人を解析対象とした。孤独感は6-Item De Jong Gierveld Loneliness Scaleを用いて評価した。認知症の診断にはDSM-ⅢRを用いた。オッズ比の算出にはロジスティック回帰分析を使用した。5年間で952名中86名(9.03%)が認知症を発症した。社会的孤独感を有する人では、無い人に比べ認知症発症のオッズ比(性年齢調整後)が1.75 (p<0.05)と有意に高かった。しかし、生活習慣、現病歴等の身体的因子、婚姻状況や独居の有無、親族友人との交流頻度等の社会的因子、うつ病の有無で多変量調整を行ったところ、有意な関係は消失した。一方、情緒的孤独感を有する人が認知症を発症するオッズ比(性年齢調整後)は、2.08(p<0.01)と無い人に比べ有意に高く、多変量調整後も有意な関連を認めた。地域高齢者において孤独感は認知症発症リスクに有意に関連していた。認知症の予防や認知症高齢者のケアにおいて、孤独感を考慮することの重要性が示唆された。
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