研究課題
血管性浮腫は遺伝性と非遺伝性の大きく二つに分けられ、顔面浮腫や腹痛、窒息などを生じうるプライマリーケアの領域で見逃してはならない疾患である。我々の構築した患者レジストリーを活用して、原因や病態に関与する遺伝子の同定、病因・病態の解明、その結果にもとづいた治療法へ展開させることを目的とする。血管性浮腫の患者には、1)C1インヒビター(C1-INH)値が低下した遺伝性血管性浮腫(HAE-C1-INH)、2)C1-INH値が正常な(Normal)遺伝性血管性浮腫(HAE-N)、3)遺伝性のないその他の血管性浮腫(AE)の大きく3つがある。今年度は、その中でも我々の血管性浮腫患者レジストリーに登録された患者でかつC1-INH値が低下している患者について、C1-INHの8個のエクソンならびにプロモーターについてプライマーを設定しPCR-SSCP法、直接シークエンス法によって遺伝子異常を解析した。エクソンの欠失などの大きな異常については、MLPA(MultiplexLigation-dependent Probe Amplification)法を用いて検討した。HAE-C1-INH患者91名(91家系)の患者について遺伝子異常を明らかにした。内訳はFrameshift mutation 32.3%、Large deletion 15.6%、missense mutation 35.4%、splicing defect 16.7%であった。これら遺伝子異常とHAE患者の臨床症状の部位、重症度(喉頭浮腫を生じるかどうか、窒息死の家族歴があるか)、発作回数、C1-INH活性の程度、C4低下などとは関連がなかった。C1-INH遺伝子異常の種類は欧米で報告されている頻度とほぼ同じであった。すなわちLarge deletionは欧米の報告を見ても15%程度、HAE-C1-INHで報告されている。
2: おおむね順調に進展している
血管性浮腫の患者には、1)C1インヒビター(C1-INH)値が低下した遺伝性血管性浮腫(HAE-C1-INH)、2)C1-INH値が正常な(Normal)遺伝性血管性浮腫(HAE-N)、3)遺伝性のないその他の血管性浮腫(AE)の大きく3つがある。特にC1インヒビター(C1-INH)異常のある患者(HAE-C1INH)、C1-INH異常のない患者(HAE-N)に分けてHAE患者の登録を進めている。患者のレジストレーションは順調に進んでおり、また遺伝子解析も当初の計画通りHAE-C1INH患者について進行している。遺伝子解析は、PCR-SSCP法、直接シークエンス法、MLPA(Multiplex Ligation-dependent Probe Amplification)法を適正に組み合わせて行っており、C1-INH異常が明らかになった症例について遺伝子異常の同定率は94%である。欧米の報告を見るとHAE-C1INH患者における遺伝子異常の同定率はいずれも80%~90%であり、我々の成績は良好であるといえる。とくに我々の方法では遺伝子異常が同定された場合にPCR-SSCP法でさらに確認しておりシークエンスエラーの少ない正確な遺伝子異常を同定していることになると考える。理論的には遺伝子異常同定率は100%であるべきであるが、プロモーター領域の異常やエクソン―イントロン境界領域から離れたイントロン内に存在する異常などによる遺伝子異常を見逃している可能性がある。進捗状況がおおむね順調であるとした理由は、まさに100%の同定率ではなかったことに起因している。遺伝子異常を同定することができなかった残り6%のHAE-C1INH患者については、後述するようなRNA解析を確立してさらに進めていくことが必要である。
今後もHAE-C1INH患者の遺伝子異常の同定については進めていくが、遺伝子異常同定率を100%に限りなく近づけるためには、新しい解析方法の確立が必要となる。我々が行っているいくつかの方法によって、DNAからのアプローチは現時点でほぼ完成していると考えられるため、今後はRNAを用いて発現の有無、発現量の解析、スプライシング異常を同定していくことが必要と思われる。そのためには患者さんから、末梢血を採血させていただき、末梢血単核球細胞からRNAを抽出して、RT-PCRを用いてRNAレベルで解析する必要がある。必要に応じて進めたいと考えている。今後はさらにHAE患者の登録を進めることは重要である。HAE-C1-INHとHAE-Nの症例数を増やし、HAE-C1-INHとHAE-Nとの臨床症状や検査所見、予後や重症度、治療反応性に違いがあるか検討する。HAE-C1-INHにおけるC1-INH遺伝子異常解析を進めるとともにHAE-Nについて既知の凝固XII遺伝子異常の検討を進める。欧米では凝固XII遺伝子は凝固第XII因子のエクソン9のgain of function mutation (T309K, T309Rなど4種類の遺伝子異常)が報告されている。これらについてわが国でも異常がに止められるか、C1-INH遺伝子解析で我々が確立した方法と同じストラテジーで解析システムを完成させる。一般社団法人日本補体学会では、ファルコバイオシステム(株)との共同研究事業として、補体ならびに凝固関連の98遺伝子について網羅的に遺伝子異常を解析する系を構築している。私は日本補体学会副理事長としてこの事業に参画している。上記遺伝子解析でもHAE-Nについては遺伝子異常が見られない場合、この系を利用して網羅的に遺伝子解析を行い原因となる分子を解明する。
遺伝子異常を同定することが出来なかった残り6%のHAE-C1INH患者についてRNA解析調査を進めるため。
直接経費の見込み額を828,000円として、物品費に578000円、旅費に200,000円、その他に50,000円を計画している。
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