血管性浮腫は遺伝性と非遺伝性の大きく二つに分けられ、顔面浮腫や腹痛、窒息などを生じうるプライマリーケアの領域で見逃してはならない疾患である。医療機関のみならず患者においても疾患の認知度は低く実態の解明が待たれている。本研究では我々の構築した患者レジストリーを活用して、原因や病態に関与する遺伝子の同定、病因・病態の解明、その結果にもとづいた治療法へ展開させることを目的とする。研究開始時の計画として挙げたものは以下の4点である。1)遺伝性血管性浮腫(Hereditary angioedema; HAE)の病因遺伝子、重症度を修飾する遺伝子を解明し、2)同定された遺伝子の機能、活性を測定する系を確立して重篤化するリスク群を層別化する、3)この知見を遺伝性血管性浮腫のみならず広く血管性浮腫全体の病因解明、病態把握に応用する、4)患者レジストリーをさらに充実させ、新規薬剤の開発、正確な薬効判定に役立てる。 この中で、今回の研究の成果として特記すべきことは上記の1)と3)に関わる項目である。HAEの中で従来原因として知られていたC1-INHに異常を認める群はHAE1型/2型と呼ばれるが、C1-INHに異常がなく原因が全く不明のHAE(HAE3型)も存在すると考えられている。我々はHAE患者レジストリーを構築する過程でHAE3型の臨床所見の特徴、予後、治療反応性を明らかにした。さらに遺伝子解析を行ってHAE3型の一部の患者にプラスミノーゲン遺伝子異常が存在し、それが原因であることをアジアで初めて明らかにした(Yakushiji et al.2018)。HAE3型患者の研究はアジアでは遅れており、今回の研究はその分野のアジア、日本での進歩に貢献したと考える。
|