研究課題/領域番号 |
16K09247
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
藤原 章雄 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 講師 (70452886)
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研究分担者 |
Horlad Hasita 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 研究員 (00644840)
白石 大偉輔 熊本大学, 医学部附属病院, 医員 (70769512)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | マクロファージ / 環状スルフィド化合物 / ガン |
研究実績の概要 |
近年、マクロファージ(Mac)の活性化機構には、古典的活性化経路(M1)とオルタナティブ活性化経路(M2)が存在することが知られている。このMacの活性化の違いは様々な疾患の病態形成や病態の消長と深く関連するため、Macの活性化制御が疾病の予防や治療に有効であると考えられている。ガンではMacをM2MacからM1Macに転換できればガンの予防や治療への応用が期待できる。 本年度はMacの活性化状態をM2からM1に制御する天然化合物であるOnionin A(ONA)およびGarlicnin C(GNC)のin vivoにおける効果を詳細に検討した。まず、GNCに関しては、高肺転移株であるLM8肉腫細胞を皮下移植したC3H/He マウスに、週に2回の頻度でGNCを経口投与し3週後に評価した。その結果、GNC投与群では有意に皮下腫瘍重量が減少し、腫瘍の肺転移も有意に抑制された。また、免疫組織学的解析から、GNC投与により皮下腫瘍内のpSTAT3陽性細胞数の減少が認められたことから、in vivoにおいてもSTAT3の活性化を抑制することが示唆された。また、ONAに関しては、すでに肉腫細胞移植モデルにおける有効性は明らかにしていたため、本年度は卵巣癌移植モデルでの効果と既知抗ガン剤(シスプラチン)との併用効果を検討した。その結果、ONA投与群では卵巣癌の進展を抑制し生存期間の延長も認められた。さらに、シスプラチンとの併用効果も認められた。また、GNCやONA投与群では腫瘍内のCD4およびCD8陽性T細胞数が増加したことから、Mac以外の免疫関連細胞にも作用することで抗腫瘍免疫を活性化していることが示唆されたため解析を行ったところ、ミエロイド由来免疫抑制細胞 (MDSC)の活性化も抑制することで腫瘍免疫を賦活化していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の実験計画における大きな目標としては、Garlicnin C(GNC)のリンパ球やミエロイド由来免疫抑制細胞(MDSC)に対する作用とOnionin A(ONA)の既知抗ガン剤(シスプラチン)との併用効果を評価することであった。本計画の進展度としては、GNCの骨肉腫移植モデルマウスへの投与により皮下腫瘍の進展の有意な抑制が認められたと共に、投与群ではMacの活性化制御のみならず、MDSCの活性化を抑制することで、ガンにおける抗腫瘍免疫(T細胞の活性化)の低下を抑制していることを明らかにした。さらに、in vivoモデル(卵巣癌移植モデル、肉腫移植モデル)を用いたマウス実験にて、ONAとシスプラチンとの併用効果を検討したところ、ONAならびにシスプラチン単独と比較して有意な腫瘍サイズの減少ならびに生存期間の延長が認められた。これらONAの実験結果に関しては学術論文にて報告した。さらに、ONAやGNCをリード化合物として、より効果の強い候補化合物を同定する目的で、ONAおよびGNCの基本骨格である環状スルフィド構造を有する様々な誘導体の合成および収集を行い、現在のところ試験サンプルとして30種類のONA類似化合物の準備を行った。ゆえに、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、まずは候補化合物(ONA, GNC)の腫瘍移植モデルマウスにおける既存の抗腫瘍療法(リツキシマブや抗PD-1抗体)との併用効果を検討する。具体的には、マウス骨肉腫およびマウス卵巣癌移植モデルマウスに候補化合物(ONA, GNC)とリツキシマブや抗PD-1抗体を投与し、腫瘍の発育・転移ならびにマウスの生存率を比較する。また、ONAおよびGNCは、我々が世界で初めて単離した新規の低分子環状スルフィド化合物であり、オリジナルティーも高く、将来的に治療薬として臨床で用いる場合の大量供給が必要な場合でも、有機化学的な全合成が可能であると考えられるため、ONAおよびGNCをリード化合物とした誘導体の合成と、それらの活性評価を繰り返し行うことで、より効果の期待できる化合物を同定することが可能であると考えている。そこで、29年度は環状スルフィド誘導体のin vitroでの有効性の評価を行う。具体的には、作成・収集した誘導体を用いてin vitroにおけるマクロファージ活性化制御作用を活性化マーカーの発現やサイトカインの分泌を指標に評価する。本実験で得られた構造活性相関を基に、基本骨格である環状スルフィド構造や、ONAおよびGNCに結合させる置換基の組み合わせ等を考慮し、活性の高いと予想される誘導体の作成と、それらの活性評価を繰り返し行うことで有効性の高い誘導体の絞り込みを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
候補化合物(ONA, GNC)のヌードマウスを用いたヒト腫瘍移植モデルにおける既存の抗腫瘍療法(リツキシマブや抗PD-1抗体)との併用効果を検討する予定であった。しかしながら、これまでの研究にて候補化合物(ONA, GNC)の保有量が減ってしまい、動物実験に使用する必要量を新たに天然物から抽出・単離したため本年度は時間的にヌードマウスを用いた検討ができなかった。ゆえに、ヌードマウスを用いたヒト腫瘍移植モデルでのin vivo実験分が次年度使用額として生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
すでに、必要量の候補化合物の準備・調製ができたため、候補化合物(ONA, GNC)のヌードマウスを用いたヒト腫瘍移植モデルにおける既存の抗腫瘍療法(リツキシマブや抗PD-1抗体)との併用効果を検討する予定である。
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