研究実績の概要 |
これまで抗菌剤治療の困難なメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対する補中益気湯の抗感染症効果として、補中益気湯がMRSAの保有する薬剤耐性遺伝子(mecA)の脱落に関与している可能性が示唆されている。そこで今回の研究では補中益気湯によるMRSAのmecAの変化を解析した。我々の今までの結果から補中益気湯を添加して長期培養したMRSA臨床分離株では、mecA遺伝子の脱落を認め、βラクタム系抗菌薬も含めた抗菌薬に対する薬剤感受性が上昇した。さらにマウス鼻腔感染実験でも補中益気湯投与により、MRSA菌株定着の低下を認めた。しかしこれまで補中益気湯エキスによる耐性遺伝子脱落に伴うMRSAの遺伝子レベルの解析は、遺伝子脱落菌の脱落前後のMRSAのtotal RNA抽出が難航しており、次世代シーケンサーを用いたRNAシーケンス法で使用できる量が確保できていなかったので細菌の全遺伝子発現の解析にまで至っていなかった。本年度もこの状況の改善が困難なため、方針を変更して、メチシリン耐性遺伝子を運ぶ染色体カセットSCCmecAを修飾する遺伝子群でcassette chromosome recombinase (ccr)遺伝子とその周辺のORFで構成される相互に相同性の高い領域としてccr遺伝子複合体が存在していることから、その中でccrA, ccrB遺伝子をターゲットとして選択してその遺伝子発現について検討を行った。その結果、補中益気湯処理群では無処理群と比較して、ccrA, ccrB遺伝子の活性が共に上昇していることが確認されて、補中益気湯がccr遺伝子複合体に作用していることが示唆された。
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