本研究は、インフルエンザ等感染症の発生規模、受診状況、診断法、治療法、合併症、医療費などを、大規模データを用いて包括的にモニタリングし、医療負荷の実態や医療施策の効果を解析することを目的とした。また、大規模データの解析基盤の構築と解析手法の確立を行った。 最終年度には、全国規模のビッグデータ基盤を用いた、2.6億の抗菌薬処方レセプトデータの解析も完了した。抗菌薬処方は年間約9000万件あり、人口1000人あたりの処方件数は1年間で704処方であった。その約70%が急性気道感染症と急性下痢症への処方だった。全体の56%が、抗菌薬が通常不要と分類される感染症への処方だった。急性咽頭炎や急性鼻副鼻腔炎に対する抗菌薬の90%以上が広域抗菌薬であった。小児、成人女性、西日本での抗菌薬処方が多かった。今後の抗菌薬適正使用に向けた施策対象が同定された。 また、国保および後期高齢者医療レセプトデータによるインフルエンザのモニタリングおよび医療負荷の解析法の構築も進めることができた。インフルエンザと診断された13万5千人を解析、約90%にインフルエンザ迅速診断検査が、約90%に抗インフルエンザ薬の処方がなされていた。処方率は、高リスク患者(年齢や基礎疾患による)および低リスク患者いずれも同程度に高かった。診断後30日以内の入院率は10万人年あたり31であり、米国(同64)や英国(同49)より少ないことが分かった。入院原因は、肺炎、心不全、喘息、脳卒中、急性冠症候群などが多く、それらの発生率を他国との比較解析が行えた。さらに、高リスク患者・低リスク患者いずれも、診断後30日以内の入院割合は、抗インフルエンザ薬の処方があった患者のほうが、処方がなかった患者よりも有意に低かった(p<0.05)。抗インフルエンザ薬の種類別にも、入院リスクの低減に与える影響を分析(多変量ロジスティック解析)できた。
|