研究課題/領域番号 |
16K09264
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
辻内 琢也 早稲田大学, 人間科学学術院, 教授 (00367088)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ストレス / PTSD / 原発事故被災者 / 社会的ケアモデル / 自殺予防 / 支援オーガナイザー / 国際情報交換 |
研究実績の概要 |
本研究は、原発事故広域避難者を対象に、次の4手法を用いて孤独死・自殺予防のための新たな「社会的ケア」モデルの構築を目指しているものである。平成28年(2016年)度の研究成果を報告する。 [A]大規模アンケート調査:震災6年目にあたる平成29年(2017年)1-2月に、首都圏に避難中の福島県住民を対象にした大規模調査(10,275世帯)を実施し、解析および結果発表を行った。外傷後ストレス障害(PTSD)症状の強さを示すIES-R(改訂出来事インパクト尺度)にて、昨年(2016年)は約33%の被災者がPTSDの可能性があることが確認されたが、今年度の調査では約46%となり、昨年度より約13ポイントも増加していることが示された。この結果からは、帰還政策が進行すると同時に、生活支援の打ち切りが具体化していく状況が被災者のストレスを増加させていることが示唆された。 [B] 被災者・遺族へのインタビュー調査:連携研究者・大学院生・学部学生らと共に、福島県および埼玉県在住の被災者へのインタビュー調査を実施し、質的分析結果を著書『原発事故フィールドノート(仮)』(遠見書房)にまとめている。 [C] ハーバード大学との海外連携:2013年度にリサーチフェローとして在外研究を行なった米国ハーバード大学難民トラウマ研究所(Harvard Program in Refugee Trauma;HPRT)のメンバーと共に執筆した英文論文“High prevalence of post-traumatic stress symptoms ・・・”が国際ジャーナルPlos One(インパクトファクター4以上)に掲載された。 [D] 民間支援団体と共に企画実践するフィールドワーク:震災支援ネットワーク埼玉(SSN)の支援活動に継続参加し、社会的ケアのSSN/WASEDAモデルを作成中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に示した、[A]大規模アンケート調査、[B]インタビュー調査、[C]ハーバード大学との海外連携、[D]民間支援団体を通したケアの実践フィールドワーク、すべての項目においておおむね順調に進展している。 今年度のもっとも大きな成果は、SSNと共同でいじめアンケート調査を行ない、その調査結果をNHK総合「クローズアップ現代+」(2017年3月8日放映)およびNHK総合ニュースにて報告できたことである。このほかにも、この1年間の最新の調査結果を発表したSSN/WIMA早稲田シンポジウム「首都圏避難者の孤立を防げ」(2017年2月25日)を開催し、そして今までの6年間の研究成果を著書『原発事故フィールドノート』にまとめているところである。 現在作成中の社会的ケアの「SSN/WASEDAモデル」は、ハーバード大学の世界のグローバル・メンタルヘルスに対応して作られた「Framework for mental health recovery model」を参照し、日本のローカルな地域におけるケアに対応させたものである。個別化・複雑化が進むニーズに対し、被災者の声を拾い上げた上で、支援団体や専門職団体と連携・協力を行ない、的確に社会資源につなげる調整を行なう「避難者支援オーガナイザー」の役割の提案である。本役割は、福島県や原発事故被災市町村が実施を開始している復興支援員の業務としても期待され、今後も、埼玉県・東京都で実施されている復興支援員の活動を医学・心理学・福祉学をベースに学術的にサポートしていく。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年(2017)度の第一目標は、昨年度より社会的な注目を浴び始めた原発事故に関連した「原発避難いじめ」の問題の解明である。2017年1-2月にNHKと共同で行なった調査では、子どものいじめの背景には、原発事故避難者の大人への差別偏見が全国的に認められていることが明らかになってきており、本研究で取り組んでいる自殺予防の問題と直結していると考えられる。今年度は、こられの千人近い回答者の量的質的データ解析を重点的に行なう。 さらに、これまでの6年間の共同研究者との研究結果を国際的に発信する計画をたてていく予定である。著書『The Human Sciences of Disaster Reconstruction: body-mind-social-cultural-ecological model(仮)』を企画する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定されていた英国における国際学会発表行きをキャンセルしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
英文論文作成のための、英文チェック費用などにあてる。
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