研究課題
本研究の目的は、心血管病の病態形成における鉄の関与と細胞内鉄取り込み受容体トランスフェリン受容体1(Transferrin Receptor 1: TfR1)の役割について解明することである。私は、これまでの研究結果より慢性腎臓病の病態形成におけるTfR1の関与を見出したことから、本研究ではTfR1遺伝子ヘテロノックアウトマウスを用いて、5/6腎臓摘出慢性腎臓病モデル、尿細管結紮モデル、糖尿病性腎症モデルを作成し、腎臓病におけるTfR1の役割について検討した。その結果、TfR1遺伝子ヘテロノックアウトマウスは、野生型マウスに比し、腎臓間質の線維化増生の程度が減弱することを見出した。その機序として、腎臓間質の線維化形成過程におけるTfR1を介した尿細管での鉄再吸収亢進、酸化ストレス増大が関与することが明らかになった。さらに、私はこれまでの研究結果よりヒト腹部大動脈瘤組織においてもTfR1発現が亢進し、鉄が沈着していることを報告していることから、TfR1遺伝子ヘテロノックアウトマウスを用いて、腹部大動脈瘤の形成過程におけるTfR1の役割についても検討した。その結果、TfR1遺伝子ヘテロノックアウトマウスでは腹部大動脈瘤の発生率や瘤径拡大が抑制されることを見出した。これらの研究結果は、TfR1が慢性腎臓病、特に腎臓間質の線維化や腹部大動脈瘤をはじめとした心血管病に対する治療のターゲットになる可能性を示唆する。
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