1) ヘリコバクター・ピロリ除菌後胃癌の表層部に出現する低異型度上皮の定義:ヘリコバクター・ピロリ除菌後発見胃癌の表層部に出現する特異的上皮に関して、我々の提唱するELA(epithelium with low-grade atypia)の定義を、日本消化器内視鏡学会誌にて発表した。混入した非がん部正常上皮は、non-neoplastic epithelium(NE)と定義し、その区分を明らかにした。 2) ヘリコバクター・ピロリ除菌後胃がんの内視鏡診断法の確立: ELAを伴う除菌後発見胃癌は内視鏡的診断が困難である。そこで除菌後に出現する発赤陥凹に注目し、その臨床的特性を解析した。除菌治療により発赤陥凹は有意に高頻度に出現した。一方で除菌後発見胃癌は、60%以上で発赤陥凹様の形態を示した。 通常の白色光観察では、発赤陥凹の生検陽性率は僅か2%程度であったのに対し、NBI拡大観察を使用することにより生検陽性率は43%に上昇した。 3)ヘリコバクター・ピロリ除菌後胃癌の表層部に出現するELAに関する遺伝子解析:当院で内視鏡的切除術を施行した除菌後早期胃癌で、広範囲にELAを認めた10症例を対象とし、ホルマリン固定パラフィン包埋検体から、レーザーマイクロダイセクションにて癌部・正常部・ELAを切り出し、DNAを抽出した。抽出したDNAはqPCRにてQuality checkを行い、次世代シークエンサー(NGS)にてdeep sequenceを行った。その結果、癌・ELA検体では10例中8例にsomatic mutationを認め、癌部で計11個の変異、ELAで計17個の変異が認められた。癌部で認めた変異は、全て同一症例でのELAで変異が認められた。以上より、遺伝子学的にELAは癌由来であることが証明された。
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