研究課題/領域番号 |
16K09290
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
柏木 和弘 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (60265791)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 胃癌 / 小線源療法 / 分子標的治療 / アポトーシス |
研究実績の概要 |
近年、本邦でも切除不能進行胃癌に対する、新規抗癌剤と放射線の併用療法の治療効果と安全性について報告されている。当院でも、根治切除困難な進行胃癌に対して、化学放射線療法を施行し、奏功例・根治切除の可能性が生じた症例には、胃切除を行い、組織学的完全奏功および長期無再発生存例を経験している。胃原発巣と所属リンパ節に、これまで以上にピンポイントの強度変調放射線照射が可能となってきたものの、呼吸性変動の大きな胃のような管腔臓器では、近接した他臓器による照射により重篤な合併症をもたらす。これに対して2003年より本邦で前立腺腫瘍に対して使用可能となった125Iを用いた小線源療法では、通常の外部照射より高線量が安全に投与可能である。さらに、胃癌の分子生物学的特徴に関する研究から、局所進行性胃癌として発見されることの多いびまん性胃癌では、PD-L1/2の発現増加が認められ、治療ターゲットとなりうる、と報告された。 そこで本年度は、小線源療法の各種胃癌細胞培養レベルでの実験方法の確立および効果を検討した。まず、胃癌細胞株(2種の低分化腺癌と1種の高分化腺癌)に対する小線源療法の増殖抑制効果として、proliferation assayを行い、いずれも有意差をもって増殖が抑制された。次に、この増殖抑制にアポトーシスが関与しているかどうかを確かめるために、annexin Vとpropidium iodideによる二重染色を行ったところ、annexin V陽性細胞の増加を認めた。さらに、アポトーシスの主要なmediatorであるcaspase-3の活性が優位に増加していることを確認した。以上より、小線源療法は、アポトーシスを誘導することによって、分化度を問わず、胃癌細胞の増殖を、in vitroで抑制したことを証明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の当初の予定は、in vitroでの、各種の胃癌細胞株に対する、125Iによる小線源療法の増殖抑制効果の検討であった。まず、125I照射下での細胞培養レベルでの実験方法を確立した。すなわち、培養細胞が均一に照射され、無菌的な培養が継続できるよう、下の60mmの培養皿に、中心に1個とその周りの円上に8個の125I seedを均等に並べ、上の35mmの培養皿で胃癌細胞を培養した。さらに、より均等な照射を確保するた めに、一定の時間ごとに、上の培養皿を時計方向に回転することとした。Preliminaryな検討において、この方法で、ほぼ均等に照射された細胞の培養継続が可能であることが確認できた。 次に、小線源療法の各種胃癌培養細胞に対する増殖抑制効果がproliferation assayにより実証された。その機序の少なくとも一つの大きな要因として、apoptosisの関与を想定し、annexin Vとpropidium iodideによる二重染色を行ったところ、3種類の癌細胞全てにおいて、apoptosisが誘導されていることを発見した。さらに、caspase-3の有意な活性増加を確証することにより、胃癌細胞は、分化度に関係なく、小線源療法でapoptosisを誘導することが可能であるとの、in vitroでの結論に至ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
線維芽細胞単層培養では、今回の小線源療法では、増殖抑制は認められなかった。当初は、共培養による実験を計画していたが、マウスでの実験で、癌細胞のみならず線維芽細胞への影響も観察できると考え、in vitroの実験は本年度で終了とすることとした。 まず、preliminaryな実験として、癌細胞の量を変えて、マウスの皮下に播種して腫瘍モデルを作っている。次に、実際にヒトの前立腺に打ち込む時に用いているアプリケーターにより、125Iを内蔵しない、空のseed(cold)を腫瘍内に打ち込んで、マウスの体重や腫瘍容量を経時的に観察する。現在は、これら要因の用量設定を行っている。また、マウスにできた腫瘍とその周囲の正常部を含んだ切片を作って、HE染色、免疫染色を行うべく、準備を開始している。本年度は、この準備段階を踏まえて、125I seed(hot)、cold seed、control(腫瘍のみ)の3群により、小線源療法の効果および、in vitroでの検討から得られたアポトーシスの関与がin vivoでも確認できるかどうか、検討していく。
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