胃がんは「がん検診」導入後も癌部位別死因3位、見逃し率約25%である。我々は、通常内視鏡検査時に廃棄される胃洗浄廃液から回収・解析したDNA異常を、胃がん分子マーカーとすることで、従来法の弱みである「見逃し」の解消につなげることができるほか、存在・予測診断にも応用可能であることを米国Gastroenterology誌に報告してきた。なかでも胃発がんにおけるヒトゲノム異常は、遺伝子メチル化異常をはじめとしたエピジェネティックな遺伝子異常のほうが、変異を始めとしたジェネティックな遺伝子異常よりも高頻度に認めることに注目し、網羅的メチル化解析により早期胃がん診断に関連性の高い人ゲノム異常(メチル化)をきたす候補遺伝子(MINT25、SOX17、miR34b/c、BARHL2)の同定に成功した。胃発がんにはヒトゲノム異常だけでなく、ピロリ菌感染による要因が非常に大きいことが報告されている。しかしながら「ピロリ菌遺伝子異常からみた診断マーカーの研究」はなく、我々は胃洗浄廃液を用いた解析により①複数種のピロリ菌が混在すること、②癌症例と非癌症例におけるピロリ菌種に差異があること、③除菌前後でピロリ菌種の混在比が変化することを発見し報告してきた。さらに胃洗浄廃液内に混在した複数種ピロリ菌の全ゲノム解析(G-Scan法)により、「胃がんに特異的なピロリ菌遺伝子異常(OMPs: outer membrane proteins)」を発見。これによるピロリ菌構造変化が胃粘膜定着強固と持続炎症に関与し、癌化を促し得る」ことをつきとめた。今後は、「ヒトゲノム+ピロリゲノム異常を分子マーカーとし、「廃液」による超早期胃がん診断を実現す」ため、前向き臨床試験の実施および、ピロリ菌遺伝子異常(OMPs)による発がんメカニズム解析を行っていく予定である。
|