本課題は、ヒスタミン拮抗作用が、胃のみならず下部消化管に対して障害緩和効果があるか、放射線照射粘膜障害モデルマウスを用いてその作用を検討するものである。結果として、放射線照射マウス小腸粘膜において、αGlcNacを認識する抗ムチンモノクローナル抗体であるHIK1083抗体による検出を行ったところ、小腸陰窩底部での染色性を確認した。リゾチームとの共染色により、染色部位は小腸陰窩のパネート細胞であることが明らかになった。また、パネート細胞は主に腸内細菌に対する防御的機能を担っていることから、分泌する抗菌ペプチドに着目した。放射線照射後3日目から4日目の回復期において、小腸パネート細胞に多く発現する抗菌ペプチドであるディフェンシン(DEFA5、DEFA6)のmRNA発現は、放射線照射により上昇したが、H2ブロッカーの投与により抑制された。回復期に腸内細菌が増殖することで、抗菌ペプチドも同時に発現上昇すると予想される。H2ブロッカーを投与すると、菌の増殖がおさえられ、抗菌ペプチドの発現も定常レベルで維持されていると考えられる。傷害の回復期において、3Gy単独群に比べてH2ブロッカーを投与した群の小腸において、PAS陽性細胞の増加が確認された。このことから、H2ブロッカーにはPAS陽性粘液産生の促進によって小腸粘膜損傷を抑える作用があると同時に、粘液が腸内細菌をからめとり積極的に除去している可能性も考えられる。以上より、H2ブロッカーは腸管の微生物バランスを制御、維持する作用を持つ可能性が示唆された。
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