研究課題/領域番号 |
16K09327
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
笹部 潤平 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (10398612)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | D-アミノ酸 / 腸内細菌叢 / D-アミノ酸酸化酵素 |
研究実績の概要 |
本研究では、小腸のD-アミノ酸代謝の鍵となるD-アミノ酸酸化酵素(DAO)の発現調節機構を明らかにすることが目的である。本年度は、腸内細菌叢によって腸上皮に誘導されるDAOの発現調節機構を細菌側、腸管側の2つの側面から探索した。 まず、発達とともにDAO発現を確認したところ、乳児期はDAO発現は腸管上皮の核にとどまり、その後発達とともに生後6週齢まで腸管上皮内の細胞質内で発現が経時的に上昇することが明らかとなったことから、腸内細菌叢や宿主の腸上皮の発達がDAO重要に必要であることが考えられた。 次に、どのような菌種がDAOを誘導するのか否かを明らかにするため、種々の抗生剤を投与したものの、streptomycin、vancomycin、ampicillin、neomycinのいずれもDAO誘導を抑制した。このことから、DAO誘導には特定の菌種ではなく、細菌に共通した成分が重要である可能性が高いことが示唆された。 さらに、宿主側の要因を明らかにするため、腸内細菌叢の菌体成分によるDAO誘導を想起し、パターン認識機構(特にTLRおよびNOD)による細菌認識シグナルがNF-kBを核移行させる過程に重要なMyD88およびRIPK2に着目した。MyD88 koマウスおよびRIPK2 koマウス中のDAO発現を確認したが、DAOは野生型と同様の発現レベルを認めたことから、一般的なパターン認識機構をDAO誘導は必要としないことをが明らかとなった。 そこで、無菌マウスに細菌成分であるD-アミノ酸およびL-アミノ酸を投与したところ、L-アミノ酸にも軽度DAO誘導作用があるものの、D-アミノ酸によってDAO発現誘導を認めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生理的なDAO発現の経緯および、宿主側の要因、細菌側の要因の双方向からDAO発現メカニズムを検討することを本年度に計画していた。いずれの計画も遂行できたため、研究はおおむね順調に進展している。 予想外の結果としては、DAO発現は抗生剤の種類を問わず抑制されるという点と、一般的なパターン認識機構を介さないという点である。 これに対して、菌体ではなく、細菌特有の分子であり、DAOの基質となるD-アミノ酸に着目してDAO発現誘導作用を動物レベルで確認したことから、予想外の結果に対しても順調に対応できていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
DAOの細胞内の誘導メカニズムを明らかにすることが今後の研究方針である。 腸細胞中のDAO発現調節機構の解明をSAMシステムを用いて行う。 具体的には、分化型DAO_mCherry-Caco細胞を用いて、細胞内のいずれのシグナルによってDAOが発現誘導されるかを検討するため、恒常活性型CRISPR/Casp9ライブラリ(SAMシステム)(Konermann et al., Nature 2014)によるスクリーニング系を用いる。Konermannらによって開発されたSAMシステムは、標的遺伝子をsgRNAによって認識し、恒常発現を促す転写因子群をリクルートすることで、個々の遺伝子に恒常発現を誘導できるシステムであり、Addgeneで広く配布しており購入可能である。SAMシステムをレンチウイルスで発現させたDAO_mCherry-Caco細胞のうち、mCherry陽性の細胞群のみをセルソーターによって採取し、genomic DNAを回収する。これをテンプレートとして2回のPCRをかけてsgRNA配列を標識化し、次世代シーケンサで配列を読み、配列をMAGeck(Liu Lab, Harvard School of Public Healthが開発)を用いて解析し、DAO発現に重要な分子群をスクリーニングする。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度予算の1%を次年度に回すものの、99%は計画的に使用したため、特記すべき理由はありません。
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次年度使用額の使用計画 |
in vitroの細胞培養用消耗品の購入に利用する予定である。
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