研究課題
スフィンゴシン1リン酸(sphingosine 1-phosphate; S1P)は、細胞の増殖やアポトーシス、収縮、運動に作用し、生体内で免疫反応や血管構造の構築などに重要な役割を果たすことが明らかとなり注目されている生理活性脂質である。我々は、このS1Pが肝再生や線維化に深く関与し、肝臓病の病態に役割を果たしている可能性を提示してきた。本研究では、これまでの研究成果に基づき、肝臓病の中でも臨床上大きな問題となっている肝癌をターゲットとして、その病態におけるS1Pの意義を解明し、S1P作用の修飾により治療学を確立する可能性を探ることを目的とした。従来、細胞内においてS1Pは増殖促進的に働くことが知られており、一般に活発に増殖する癌細胞においては、S1Pの細胞内濃度が増加しており、癌組織の増殖に貢献していると信じられてきた。そこで、我々は肝癌症例において手術により切除された癌組織におけるS1Pの代謝動態について検討を開始した。まず、従来多くの癌細胞での報告と同様に癌組織におけるS1P産生酵素の発現が非癌組織に比較して亢進していることが確認された。次に癌細胞において発現が低下しているとの報告が多いS1P分解酵素については、予想に反して癌部において、非癌部に比して発現が亢進しているとの結果が得られた。さらに、最も注目される成績として、一般に癌細胞において増加していると考えられているS1P自体の濃度は肝癌組織において、非癌部に比べて、むしろ減少していることが明らかとなった。今後、この従来の報告とは異なる成績について、肝癌特有な現象であるのか、どのような細胞生物学的意義があるのかに焦点を絞り検討を進める予定である。
2: おおむね順調に進展している
肝癌組織における検討により、早速有意な、かつ従来の報告と異なって興味深い成績が得られているため。
・検討する肝癌症例数を増やしていく・従来の報告と異なる結果として、肝癌におけるS1P分解酵素の発現亢進の意義を、肝癌細胞株を用いて検討する・他のS1P代謝関連酵素の発現を肝癌組織において調べ、S1P代謝について明らかにしていく
肝癌手術検体の検討は順調に進んだものの、肝癌細胞株を用いた細胞レベルでの検討の方は十分に進まなかった。これにより目論見に比して細胞実験のための費用が使われず、次年度使用額が生じた。
まずは、肝癌細胞株を用いた検討を一義的に行う。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件)
PLoS One
巻: 11(2) ページ: e0149462 1-16
doi: 10.1371/journal.pone.0149462
Scientific Reports
巻: 6 ページ: 32119 1-8
DOI: 10.1038/srep32119