研究課題/領域番号 |
16K09343
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
池田 均 東京大学, 医学部附属病院, 准教授 (80202422)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | スフィンゴシン1リン酸 / 肝細胞癌 / 大腸癌 / S1Pリアーゼ / トランスレーショナルリサーチ |
研究実績の概要 |
スフィンゴシン1リン酸(sphingosine 1-phosphate; S1P)は、細胞の増殖やアポトーシスに作用することが知られる生理活性脂質である。従来、S1Pは細胞内において増殖促進的に働くことが知られており、一般に活発に増殖する癌細胞においては、S1P量が増加しており、癌組織の増殖に貢献していると信じられてきた。ところが、肝癌症例において手術により切除された癌組織におけるS1Pの代謝動態について検討したところ、まず、従来多くの癌細胞での報告と同様に癌組織におけるS1P産生酵素の発現は非癌組織に比較して亢進していることが確認されたものの、癌細胞において発現が低下しているとの報告が多いS1P分解酵素は、予想に反して癌部において発現が亢進しているとの結果が得られた。さらにS1P自体も肝癌組織において、増加していないことが明らかとなった。 この知見は、従来の定説を覆すものであるため、とくに定説に沿った報告が多く、その根拠となっている大腸癌で検討を行った。結果として大腸癌でもS1P産生酵素発現は亢進、分解酵素も亢進、細胞内から外へのトランスポーターも亢進、受容体ではS1P2発現が亢進し、細胞内でのS1P量は増加せず、S1P代謝の亢進が推定された。大腸癌細胞を用いて、これら変化の中でS1P分解酵素の発現を強制的に亢進ないし抑制したところ、細胞増殖は亢進および抑制されることが判明した。細胞レベルでS1P代謝亢進が増殖につながることを示す貴重な1例になると考えている。 今後、この現象を利用した治療学の確立を目指したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肝癌組織における検討により、従来の報告と異なって興味深い成績が得られたが、さらに大腸癌組織でも同様の知見が得られている。 臨床応用の可能性も高いと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
S1P代謝亢進が細胞増殖促進的に働くことが、普遍的現象であるか、さらに検討して行きたい。S1P代謝関連酵素の促進剤、抑制剤は多く存在することが知られており、臨床応用、とくに癌治療に役立てることを目標としている。
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次年度使用額が生じた理由 |
臨床材料の分析検討が先に進んだため、物品費が予想より少額で済んだ。今後、細胞実験を行うため、必要物品費は増えると予想される。 研究実施に専念し、学会発表の機会が当初に希望より少なくなったため、旅費としての使用額が少額となった。
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