研究課題
● 抗ウイルス治療によって大きく進歩したB型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)治療において残された最大の問題は、抗ウイルス治療後に発生する肝癌の克服である。本検討では、次世代シークエンス技術を用いた肝炎ウイルスおよび宿主遺伝子の解析により、肝発癌リスク、治療標的分子などを明らかとすることを目的とした。●C型肝炎においては、ウイルス全長ゲノム解析にて、抗ウイルス治療によるウイルス消失後も、治療前のコア遺伝子とNS5A遺伝子の変異がウイルス消失後に生じる肝癌発生に関与することを明らかとした。現在はdeep sequencingによるquasispecies解析をさらに行っており、より発癌と関連する領域についてさらに検討を進めている。●B型肝炎においては、核酸アナログによるウイルス治療中であっても、HBs抗原とHBコア関連抗原定量検査の組み合わせにより、肝発癌リスク症例を囲みうること、またこれらのHBs抗原、HBコア関連抗原定量値の変化にはpreS/S領域変異が重要な意義をもち、シークエンス情報が重要なこと、一方、抗ウイルス剤治療中のため血中HBV-DNAが検出されない状況においても、HBコア関連抗原が比較的高値であれば血中HBV-RNAが検出されうること、また血中HBV-RNAを利用したウイルスゲノム変異解析について明らかとした。●宿主ゲノムについては、B型、C型(抗ウイルス治療後を含む)、NBNC型あわせて約110症例の腫瘍結節をレーザーマイクロダイセクション法で精緻に採取し、癌関連遺伝子に着目したゲノム解析を行い、抗ウイルス治療後における遺伝子変異プロファイルの検討を行いつつある。
2: おおむね順調に進展している
●C型肝炎においては、ウイルス全長ゲノム解析を含む解析にて、抗ウイルス療法後に生じる肝癌と関連するコアとNS5A領域について同定している。ただし、最終的には1分子シークエンサー等を用いたさらなる検討が必要と考えている。●B型肝炎においては、HBs抗原とHBコア関連抗原、preS/S変異、HBV-RNAの関連と肝発癌の可能性について明らかとしている。またHBV-RNAという新たなツールの可能性についても明らかとしつつある。●宿主ゲノムについては抗ウイルス後の肝癌ゲノム変化の特徴を明らかとするため、抗ウイルス後のみならず多様な成因からなる肝癌を対象に、宿主ゲノム変化について癌関連遺伝子変異に注目して検討してきた。一方、成因に拘わらずhTERT、CTNNB1、TP53などは発癌に伴って変異しやすいことが明らかとされたことから、これらの癌関連遺伝子に注目し、血漿を用いた肝癌ゲノムのliquid biopsyを行えば、本方法が今後肝癌早期診断マーカーとして有用となる可能性も考えられた。
●C型肝炎ウイルスゲノムについて、次世代シークエンサーを含めた解析にて、コアとNS5A遺伝子変異の重要性を明らかにしたが、今後1分子シークエンサーOxford Nanoporeシークエンサーを用い、コアからNS5A遺伝子に至るウイルス直列配列のdeep sequence情報を得て最終的に病態と関連する領域を明らかとしてゆく。●血清のHBV-RNA情報を利用し、核酸アナログ投与中におけるウイルスゲノム変異情報と肝癌の関連をさらに明らかとしてゆく。●宿主ゲノム変異と肝癌の可能性については、肝癌組織解析から得られた情報をもとに、血漿を用いた宿主ゲノム変異検出のためのリキッドバイオプシーのシステムを構築することを目指してゆく。
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