研究課題/領域番号 |
16K09354
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
石川 哲也 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 教授 (10288508)
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研究分担者 |
伊藤 弘康 岐阜大学, 大学院医学系研究科, 准教授 (80373075)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 肝細胞キメラマウス / 肝細胞置換率 / GFP / 免疫拒絶 |
研究実績の概要 |
TK-NOGマウス(H-2bあるいはH-2d)を同系の野生型マウス(C57BL/6, H-2bあるいはBalb/c, H-2d)へのバッククロスを繰り返すことで、正常な免疫機構を持ちC57BL/6あるいはBalb/cと同じバックグラウンドを持つHSVtkを作製した。HSVtkではガンシクロビル(GCV)投与により自己の肝細胞が死滅し、その後に他のマウスから分離した肝細胞を移植することで肝細胞キメラマウスの作製が可能となる。この系ではGCVによる自己肝細胞の死滅の程度が、肝細胞移植によるキメラ化効率(肝細胞置換率)の規定因子となる。しかし、GCVによる肝細胞死滅効果はマウスの系統ごとに差を認めるため、まず作成したHSVtkにおいてGCV投与の至適条件を決定した。当初、移植する肝細胞を量子ドット(QD)にてラベル化することを計画していたが、肝灌流により分離した肝細胞の生存率は80%程度であり、さらに浮遊培養の状態でのQDラベルで生存率の低下がみられたため、現時点では同系のGFPトランスジェニックマウス(GFPtg)から分離した肝細胞を用い、主にGFPの免疫染色で移植後(脾注)の局在を解析している。脾注後、GFPtg由来肝細胞は肝臓に局在するものの、肺、心臓、脾臓、腎臓などへの局在は認めていない。なお、ex vivoでの蛍光イメージングでも、肝臓のみでGFPシグナルの検出が可能であることを確認できている。また、HSVtkにアロ肝細胞を移植した場合には移植肝細胞の排除を認め、免疫拒絶の評価が可能なモデルであることを確認している。現時点での肝細胞置換効率は最大で30%程度であり、以後の解析を容易にするために、GCVによる肝細胞死滅効果の安定化、肝灌流による肝細胞分離効率の向上などによる、HSVtkでの肝細胞置換効率の向上に向けた検討も同時に行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
肝細胞キメラマウス作製系において鍵となるGCVによる肝細胞死滅効果、および移植用肝細胞分離の効率の2点において、当初想定していた結果が得られなかったことが現時点での遅れの原因である。GCV投与で十分な肝細胞死滅効果が得られなかったことで、肝細胞置換率がやや低値に留まったが、現時点ではGCV投与量の至適化が進んでいる。また、GCV投与ルートの変更(経口投与)による効果も同時に検討しており、今後はさらに改善が見込まれる。肝細胞分離については、肝灌流時のdigestion mediumの変更などにより、当初、1×10-6個/匹程度の肝細胞回収率だったものが10-7個/匹レベルまで改善してきており、これも解決の方向にある。
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今後の研究の推進方策 |
肝細胞キメラマウス作製の効率向上により、現時点で解析が遅れている移植細胞の拒絶に関わる免疫応答の詳細な解析(肝浸潤細胞、肝内遺伝子発現、血中サイトカイン/ケモカインなどの解析)も当初の予定通り進めることができると考えている。また、移植用肝細胞分離の効率上昇により、肝細胞のラベル化条件についても改善が期待できるため、GFPより蛍光強度の強いQDあるいは他の蛍光分子(PKH、CellVueなど)をラベル化に用いることで、in vivo、ex vivoイメージングによる免疫拒絶の可視化がより高い精度で実現できると考えている。肝障害環境下での移植効率評価については、上記の改善が進めば比較的容易に進められると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者(岐阜大学 伊藤弘康准教授)への配分額に残額が生じたことが、次年度使用額が生じた理由である。肝細胞キメラマウス作製の効率向上に関する検討に時間を要したことより、研究分担者が主として進めることとなっていた分子生物学的解析、免疫学的解析はやや遅れている。研究分担者の配分額に残額が生じたのはこのためである。しかし、肝細胞キメラマウス作製の効率は改善しつつあり、今後は移植細胞の拒絶に関わる分子生物学的・免疫学的解析(肝浸潤細胞、肝内遺伝子発現、血中サイトカイン/ケモカインなどの解析など)も計画通り進めることができると考えている。また、移植用肝細胞分離の効率も上昇したことより、肝細胞のラベル化条件についても改善が期待できる。よって、GFPより蛍光強度の強いQDあるいは他の蛍光分子をラベル化に用いることで、in vivo、ex vivoイメージングによる免疫拒絶の可視化がより高い精度で実現できると考えている。肝障害環境下での移植効率評価については、上記の改善が進めば比較的容易に進められると考えている。これらより、学会発表、論文作成など具体的な成果につなげていきたい。
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