研究課題
レチノイドはビタミンA様化合物の総称であり、網膜以外の組織では主に核内受容体RAR(retinoic acid receptor)を介して標的遺伝子の発現制御に関与している。本研究ではレチノイドの肝癌抑制作用について検討するため、TFPI2(tissue factor pathway inhibitor 2)に着目した。TFPI2は、血液凝固抑制作用に加え、細胞外マトリックスの分解抑制作用を持ち、癌の転移を抑制することが報告されている。研究代表者は、TFPI2がレチノイドの標的遺伝子であり、RARに加え、MAF(musculoaponeurotic fibrosarcoma)ファミリーに属する転写因子MAFBとMAFFが関与していることを見出した。その詳細について検討した結果、MAFBとMAFFはRARに対しそれぞれ正と負に作用し、レチノイドによるTFPI2の発現を増強あるいは減弱することが明らかになった。さらにこれらの転写因子は直接結合せず、それぞれがTFPI2遺伝子プロモーターに結合することで相互作用していることが示唆された。レチノイドによるTFPI2発現誘導が癌の浸潤活性に与える影響について検討したところ、肝癌細胞株HuH7では、レチノイドはTFPI2を介して癌細胞浸潤を抑制していることが明らかになった。さらにTFPI2をノックダウンした細胞株でマイクロアレイ解析を行い、パスウェイ解析を行った結果、細胞運動や血液凝固関連経路に異常を認めた。さらにMAFBあるいはMAFFをノックダウンした細胞のマイクロアレイ解析結果より、MAFBとMAFFはレチノイド代謝およびアディポカインシグナル経路において相反する機能を持つことが示唆された。またTFPI2やMAFB、MAFFの発現量は肝癌患者の予後を規定することが明らかになった。
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