研究課題/領域番号 |
16K09360
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
坪田 智明 鳥取大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40538138)
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研究分担者 |
植田 幸嗣 公益財団法人がん研究会, ゲノムセンター, プロジェクトリーダー (10509110)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | がん幹細胞 / 翻訳後修飾 / メチル化修飾 |
研究実績の概要 |
がんは日本人の死亡原因の1位であり、新規治療法の研究開発が強く求められている。最近、がん組織は均質ではなく、正常組織と同様に自己複製能および多分化能を有するがん幹細胞を頂点とした細胞階層を形成することが明らかになってきた。このがん幹細胞は、抗がん剤等に対して強い抵抗性を示し、がんの発生や再発、転移の大きな要因となっていることが考えられているが、その作用機序はまだよく理解されていない。また、近年、タンパク質のメチル化修飾は遺伝子発現制御やタンパク質の安定性、酵素活性など、種々のタンパク質機能を制御することで、細胞特性に重要な影響を及ぼすことが報告されている。そこで本研究課題では、このタンパク質のメチル化修飾に着目して、がん幹細胞におけるメチル化修飾ネットワークを解明し、臨床研究への応用を試みることを計画した。平成28年度は、プロテオミクス解析によるがん幹細胞特異的なメチル化修飾部位の同定を行った。そのために、分担研究者の植田幸嗣先生との共同研究で、がん幹細胞と非がん幹細胞におけるタンパク質メチル化修飾の違いを質量分析(SILAC法: Stable Isotope Labeling using Amino Acids in Cell Culture)によって網羅的に解析した。その結果、複数のタンパク質においてメチル化修飾レベルが異なっていることを明らかにした。今後はこれらのタンパク質のメチル化修飾に着目した研究を進める予定である。また、化合物などを用いたがん幹細胞性への影響についても解析を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近年、タンパク質のメチル化修飾はタンパク質の安定性や酵素活性、また相互作用など、広範なタンパク質機能に重要な影響を及ぼすことが報告されてきている。がん幹細胞は、通常の分化したがん細胞に比べて、薬剤耐性能や腫瘍形性能が高く、既存の治療法に対しても抵抗性を示し、がんの再発や転移に深く関与しているため、その特性を理解することが重要となっている。そこで、本年度はがん幹細胞と非がん幹細胞におけるタンパク質メチル化修飾レベルの違いについて解析を行った。そのために、がん幹細胞におけるメチル化修飾を特殊な放射性同位元素によってラベルし、分担研究者の植田幸嗣先生との共同研究で、がん幹細胞と非がん幹細胞において異なるタンパク質メチル化修飾部位を質量分析によって網羅的に同定した。その結果、複数のタンパク質においてメチル化修飾レベルが異なっていることを明らかにした。そこで今後はこれらのメチル化修飾に着目した研究を進める予定である。また、がん幹細胞の発生要因の一つとして正常な幹細胞におけるゲノム不安定性が起因となっている可能性が考えられるため、その作用機序についても解析を進めている。以上の実験結果は、概ね当初の計画通りに進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
がん幹細胞特有のメチル化修飾ネットワークを理解することは、新たながん幹細胞マーカーとして利用できるだけでなく、そのネットワークを制御することによってがん幹細胞を抑制できる可能性が考えられる。がん幹細胞の抑制は、がん治療をさらに促進させることが期待される。本年度、複数のがん幹細胞特有のメチル化修飾部位を同定することができたため、今後、それぞれについて、その重要性を詳細に検討する必要がある。特に、がん幹細胞の特性である薬剤耐性能や腫瘍形性能に影響を及ぼすメチル化修飾に着目し、その細胞内制御機構を明らかにすることが重要と考えられる。そのために、がん幹細胞特異的なメチル化修飾レベルを変化させた場合の薬剤感受性やスフェア形成活性等への影響について解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度、複数の候補修飾部位を見出したため、今後機能解析を行って優先度等を決めたのちに、詳細な解析を行う。
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次年度使用額の使用計画 |
当初の予測以上の複数の興味深い候補修飾部位が得られ、それらの解析を行うために消耗品などの支出が増えることが見込まれる。そのため持ち越し分をその購入等に充てる。
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