研究課題
非アルコール性脂肪性肝疾患病態及び肝癌への進展につながる機序は明らかでない。多段階発癌にはゲノム不安定性が寄与しており、その存在はDNA損傷応答蛋白p53 binding protein-1(53BP1)の核内フォーカス出現により推定可能である。しかし、発癌の背景となり得るNASHにおけるゲノム不安定性の存在とその意義はほとんど知られていない。今回我々は、53BP1蛍光染色を主たるツールとして,NASHにおける遺伝子修復応答の存在・機序を培養肝細胞、NASHモデルマウス、及びヒト肝生検組織を用いて証明する目的であった。遊離肝細胞を用い低濃度の遊離脂肪酸で刺激を行い、53BP1蛍光染色にて53BP1フォーカス発現の有無を検討した。また、50人の正常およびNAFLD患者に対し肝生検標本における肝細胞の53BP1発現を検討した。53BP1核内フォーカス3個以上を異常フォーカス、直径1μmのフォーカスをlarge focusと定義し、検討を行った(Nakashima et al, 2008, Histopathology. 2011) 。さらに肝細胞内53BP1の発現と病理所見、臨床検査所見の比較を行った正常肝およびNAFLと比較し、NASH患者では有意に異常フォーカスおよびLarge focusが増加していた。53BP1のフォーカスは一部γH2AXとco-localizeしていた。NAFLD(n=40)の病理学的グレード分類(NAS score)の解析ではLage focusは線維化に関連していた。一方で、臨床検査所見では、53BP1異常フォーカス血小板数との有意な負の相関が見られた。NAFLDにおいて、DNA二重鎖切断が惹起されていることが示唆され、その様子は53BP1蛍光染色を用いてイメージング可能であった。53BP1はNAFLD肝における炎症および線維化と関連しており、将来発癌のリスクマーカーなどに有能である可能性があると考えられた。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
Modern pathology
巻: 32 ページ: :997-1007
doi: 10.1038/s41379-019-0218-8