研究課題
本研究は、慢性肝不全の病態をひき起こしている肝細胞の機能的形質変化およびそれを引き起こしている因子の同定を行い、新規の慢性肝不全の治療法を開発することを目的とし、その実現に向けた取り組みとして、本年度の研究成果は主に以下の3点に分けられる。1.ヒト正常肝および非代償期肝硬変から採取した肝細胞サンプルを用い、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)によるメタボロミクス解析を行った。結果、肝不全肝細胞ではD-glucose-6P、pyruvate、L-lactateおよびcitrate量の増加とsuccinate量の低下がみられた。2.また肝細胞培養系での検討では、肝不全肝細胞ではミトコンドリアDNA量とNAD/NADH比の減少、glucose消費量とL-lactate産生量およびNADP/NADPH比の増加、さらには総ATP含有量の低下がみられた。3.また前年度までに行ったマイクロアレイ解析との統合解析の結果、ヒト肝不全肝細胞でエネルギー代謝が低下している機序として、①pyruvate carboxylase、isocitrate dehydrogenaseなどの代謝酵素の発現が低下し、ミトコンドリア内でのTCAサイクルの代謝遅延を介して、酸化的リン酸化経路の反応基質となるsuccinateやNADHの産生量の低下につながっていること、またミトコンドリアではNADH dehydrogenase、cytochrome oxidase c、F-type ATPaseなどの酸化的リン酸化経路の構成subunitが減少し、最終代謝産物である細胞内ATP総量の減少につながっていることが明らかとなった。肝細胞におけるATP産生は、様々な代謝機能をつかさどる肝細胞機能の維持に極めて重要であり、本年度の研究で特定された因子の治療応用の可能性につき引き続き検討の予定である。
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Diabetes Metab Syndr Obes.
巻: 12 ページ: 1473-1492
10.2147/DMSO.S214093
http://www.f.kpu-m.ac.jp/k/syokanai/reseaches/kiso-kenkyu.html