研究実績の概要 |
高度の肝障害により成熟肝細胞の増殖が抑制されると, 細胆管とよばれる幼若な胆管構造(肝前駆細胞)が出現し, 急性肝不全の肝再生不全病態の成立に重要な意義を持っている. 我々は, 急性肝不全血漿中のサイトカインが肝細胞から胆管上皮細胞への分化転換を誘導すると仮説を立て, 急性肝不全血漿中のサイトカインの網羅的解析を行い, 急性肝不全血漿中で高値を示したサイトカインが肝細胞から胆管上皮細胞への分化転換に寄与する可能性について分子生物学的手法を用いて検証した. 結果:1. 急性肝不全患者の血漿サイトカインの中で, IL-8が最も高値を示した. 2. マウスのIL-8相同体であるKC, MIP-2はマウス成熟肝細胞AML12の増殖を抑制し, 肝前駆細胞の増殖を促進した. KC, MIP-2は胆管上皮細胞の増殖には影響を及ぼさなかった. 3. AML12および初代培養肝細胞は,KC、MIP-2添加後にSox9 遺伝子および蛋白の有意な発現上昇を認めた. 5. ヒト急性肝障害組織中の門脈周囲にSox9陽性肝細胞の出現を認めた. Sox9陽性肝細胞数は,単純性脂肪肝組織と比較して有意な増加を示した.ヒト急性肝障害組織中のSox9陽性細胞の一部は, 成熟肝細胞マーカーのHep-par1, HNF4αを共発現していることを確認した. 結論:急性肝不全患者の血漿で上昇するIL-8が成熟肝細胞において胆管上皮細胞の表現型を誘導することが明らかとなった. また, 血清IL-8が生検時に高値を示したヒト急性肝障害組織中にSox9陽性肝細胞が観察された. 以上より, IL-8は成熟肝細胞から胆管上皮細胞への分化転換に寄与する因子の1つである可能性が示唆された. 急性肝不全の病態病理の理解には, 炎症性サイトカインにより誘導される成熟肝細胞の分化可塑性が関与している可能性を念頭に置く必要があると考えられた。
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