研究課題/領域番号 |
16K09378
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
及川 恒一 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (20514491)
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研究分担者 |
吉田 清嗣 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (70345312)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 肝癌 / 転移 / 癌幹細胞 |
研究実績の概要 |
原発性肝癌の根治的治療としては外科的切除で、早期には肝内病変治療としてラジオ波焼灼療法、肝動脈塞栓療法等がときに有効であるが、遠隔転移、胆管・血管内浸潤を呈するようになると予後不良であるため、より早期の診断法の確立及び新規治療法が切望されている。現在、切除不能肝細胞癌に対して臨床で使用される唯一の分子標的薬であり、腫瘍の細胞増殖と血管新生を阻害するsorafenibの効果は非常に限定的である。このような背景から選択的に癌細胞(癌幹細胞)のみを傷害するような治療標的分子の同定による新たな新規治療法の開発が急務であると考えられる。本研究では、肝癌幹細胞における自己複製・分化・転移制御メカニズムを解明することで、将来的な癌幹細胞を標的とする新規治療法への開発応用を目指すことを目的とする。これまでに進行乳癌等でリン酸化酵素であるDYRK2発現低下が①癌幹細胞分画の増加をもたらすこと、②c-Junやc-Mycの蓄積を引き起こし細胞増殖が亢進すること、③Epithelial-Mesenchymal Transition(EMT)を制御することで癌の転移・浸潤に関与することが報告されている(Taira et al. J Clin Invest, 2012 / Mimoto et al. Cancer Lett, 2013)。しかし肝癌におけるDYRK family分子の機能については未だ不明である。そこで本研究では、肝癌幹細胞におけるDYRK family分子の機能を解析し、肝癌の進展・転移制御機構の解明を目指すとともに、将来的に癌幹細胞を標的とした新規治療法の開発へと発展させたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究ではヒト肝癌細胞株におけるDYRK2の関与について検討を行った。DYRK2 mRNAは数種のヒト肝癌細胞株に発現が認められ、ヒト正常肝細胞と比較しその発現が低いことが明らかとなった。ヒト肝癌細胞株のうちDYRK2の発現の低い細胞株HLFにおいてウイルスを用いた遺伝子導入によりDYRK2の強制発現を行ったところ、HLFの増殖が抑制された。またmigration assayおよびinvasion assayを行ったところDYRK2強制発現によりHLFのmigrationおよびinvasionが抑制されることを明らかにした。次にCRISPER/Cas9システムを用いた遺伝子改変によるDYRK2ノックアウトを試みたが、現在までのところ系がうまく作動せずノックアウト細胞株の樹立には至っていない。しかし同時並行でshRNAシステムおよびウイルスを用いた遺伝子導入によりDYRK2遺伝子をノックダウンすることで肝癌細胞株における機能解析を行った。DYRK2発現の比較的高いHuH1肝癌細胞株においてDYRK2遺伝子のノックダウンによりin vitro培養系で増殖の有意な亢進を認めた。またmigration assayおよびinvasion assayを行ったところmigrationおよびinvasionは促進され、DYRK2は肝癌細胞株の増殖および転移能の制御に関与する可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの結果よりDYRK2発現低下は肝癌細胞の増殖や遊走・浸潤を制御し肝癌の進展・転移に強く関与する可能性が示唆された。そこでDYRK2による肝癌細胞の増殖、遊走・浸潤への制御メカニズムを明らかにするため、細胞周期関連遺伝子、アポトーシス関連遺伝子およびEMT転移関連遺伝子をqRT-PCR およびウェスタンブロットで解析する。またin vivoでのDYRK family遺伝子の腫瘍造成能と転移能に与える影響を明らかにする。肝癌細胞株のDYRK family遺伝子を強制発現またはknockdown / knockoutしたstable lineを作成し、免疫不全マウスに移植しlimiting dilution tumorgenicity assayを行う。移植した腫瘍細胞をIVISイメージング装置で生体内動態を解析する。ヒト原発性肝癌のDYRK familyの発現と予後との関連性を、ヒト肝癌組織検体を用いてDYRK family遺伝子の発現をReal-time RT-PCRや免疫染色で解析する。また既にあるデータベースを用いてBioinformatics解析により、予後との関連性等の解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
CRISPER/Cas9システムを用いた遺伝子改変によるDYRK2ノックアウトを試みたが、現在までのところ系がうまく作動しなかったためノックアウト細胞株の樹立には至っておらず、shRNAシステムを用いたノックアウトでの解析を先に行うことにしたため未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
CRISPER/Cas9システムを用いた遺伝子改変によるDYRK2ノックアウトの解析は必要であり、今後試行錯誤を繰り返し、未使用額を充てることとする。
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