B型肝炎ウイルス(HBV)の治療目標は、炎症の沈静化による肝硬変への進展予防、ならびに肝発がんの制御と考える。現在の治療法では、HBV複製制御による肝炎鎮静化は可能であるが、発がん阻止に関しては十分な効果が得られていないのが現状である。したがって様々な新規治療薬が開発中であるが、未だにHBV産生の鋳型であるcccDNAを制御する治療薬ならびに治療法は未確定である。内因性自然免疫が関与する抗HBV作用の可能性を検討するために、臨床サンプルの集積を行った。合わせてHBV関連肝細胞癌(HCC)のサロゲートマーカー探索ならびにその意義を検討した。 HBV感染増殖期である急性肝炎初期血清を短いintervalで採取し、持続感染状態における慢性肝炎のウイルス配列変異率と比較した。20名のB型急性肝炎患者血清を採取し、そのHBV遺伝子型は、Aが13例、Bが2例、Cが5例、であった。次世代シークエンサー(NGS)による経時的なHBV DNA多様性の検討を進めたが、遺伝子型の異なるHBVに対してPCR効率が異なることからgenotype特異的なPrimer設計に難渋した。 そこで、HBVゲノム変異によるHCCへの関連性を検討した。HBV関連HCC治療歴を有する62例とHCC治療歴のない369例で、各種ウイルス蛋白量を検討した。結果、HBs抗原高力価よりむしろHBs抗原低力価で発癌例が多く、さらにHBs抗原低値かつHBコア関連抗原高値がHBV関連HCCの高リスク群であることを見出した。HBコア関連抗原量が高値でウイルス複製能力が高いにも関わらず血中HBs抗原低力価となるケースでは、HBs抗原をコードするpreS/S領域のウイルス変異により細胞内小胞体へのウイルス蛋白蓄積を経てERストレス依存性に肝臓がん形成に至る可能性や、宿主ゲノムへのインテグレーションの可能性などが示唆された。
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