研究課題/領域番号 |
16K09380
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研究機関 | 愛知医科大学 |
研究代表者 |
伊藤 清顕 愛知医科大学, 医学部, 教授 (50551420)
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研究分担者 |
溝上 雅史 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, その他部局等, 肝炎免疫研究センター長 (40166038) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | B型肝炎 / ジェノタイプ / 分子生物学的検討 / 遺伝子変異 / 糖鎖 |
研究実績の概要 |
我々は、これまでに2000年、2005年そして2010年と5年毎にB型肝炎のgenotypeに関する全国調査を行ってきた。今回、前回調査より5年経過した時点での全国調査を行うことにより国内のB型肝炎のgenotypeの変遷を調査している。2016年10月よりHBVワクチンが定期接種化され、将来的なgenotypeごとのワクチンの有効性の違いや定期接種開始後のgenotype分布の変化を評価する上で、我々のデータは極めて重要なものとなる。さらには、B型急性肝炎および慢性肝炎の血清を収集し、血清中のB型肝炎ウイルス(HBV)の遺伝子や分泌蛋白に関して、ウイルス表面および分泌蛋白上の糖鎖修飾と病態との関連を解析中である。我々は、これまでにHBVのエンベロープ蛋白α-loop内146番目のアスパラギンにN型糖鎖が結合し、ウイルスの分泌に必須であることを報告してきた。エンベロープ蛋白の免疫原性となるα-loop内の免疫エスケープ変異によりウイルスの分泌量が低下し、これらの変異によるウイルス分泌量の低下に対して新たな糖鎖結合部位がα-loop内に形成されることによりHBVの分泌量がレスキューされることも明らかにした我々は既にHBVの再活性化症例と急性肝炎症例の血清からDNAを抽出し、Next Generation Sequencing (NGS)を用いたdeep sequencingを行い、HBV再活性化に関連するウイルスの遺伝子変異を明らかにしつつある。これまでの解析により、国内のHBV再活性化症例において糖鎖結合に関連する特徴的な変異が検出されており、さらに解析を進めていく予定である。さらには、我々の開発したWFA+-M2BP を用いて各症例の肝線維化の程度を測定しており、genotype毎の肝線維化の進展速度の傾向を解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は、2010年の前回調査から5年目にあたる2011年から2015年の5年間のB型急性肝炎、および2015年に病院を受診したB型慢性肝炎症例の臨床情報および保存血清の収集を全国の研究協力施設とともに開始した。臨床情報からHBV genotypeが不明な症例に関してはEIA法を用いてgenotypeを測定中である。また、HBs抗原が低力価等の原因によりEIA法によりgenotypeが決定できない症例においては、HBVの塩基配列を決定し系統解析を行うことによりgenotypeを決定した。我々はHBV再活性化症例と急性肝炎症例のHBV DNAを抽出し、NGSを用いて塩基配列を決定し再活性化症例および急性肝炎症例との間で塩基配列を比較し、HBV再活性化発症に関連する特徴的なウイルス側因子の発見を試みた。その結果、HBV表面に結合する糖鎖構造に関連する特徴的な遺伝子変異とHBV再活性化症例との関連が明らかとなってきた。病態に関連する遺伝子変異に関しては、必ずしもHBVのmajor cloneの変異が関与するわけではなく、minor cloneとして存在するウイルスの遺伝子変異が病態と関連することが海外から報告されており、我々は国内の症例においても同様の遺伝子変異を認めることを明らかにした。これらの結果より糖鎖修飾に関連する遺伝子変異がたとえminor cloneとして存在していたとしても、B型肝炎の病態に影響を与える可能性が出てきた。このように我々は既に検体収集および臨床情報の収集を進めている。さらにはHBVの遺伝子変異と病態との関連の解析まで進展しており、これまでのところ研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
現在、急性肝炎、慢性肝炎を含めて多数症例での解析を進めており、我々はNGSを用いてdeep sequenceを行うことによりquasispeciesに対応した解析を行いminor cloneにおける遺伝子変異と病態との関連をさらに明らかにしていく予定である。 さらには、Genotype Aはもともと欧米に多く認められており、国内ではmen sex with men (MSM)の間で感染がひろまってきたと考えられているが、感染ルートに関しては未だ不明な点が多い。HBVの塩基配列を国内のB型急性肝炎症例、慢性肝炎症例、海外の急性肝炎症例、慢性肝炎症例等を含めて系統解析を行うことにより、それぞれのgenotypeがどこからどのように拡がったかを解析中である。特にgenotype Aに関しては、米国におけるB型急性肝炎におけるsubtype A2症例の拡散時期と国内でgenotype Aが発見された時期が一致しており、米国で1990年代半ばに急速に感染が拡大したstrainが日本に輸入された可能性があり、分子生物学的手法を用いて詳細に検討することにより感染ルートの特定に努める。さらには、HBVの遺伝子変異(特に糖鎖修飾に関連する遺伝子変異)を分子生物学的に解析することにより病態との関連をより明らかにしていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
保存血清の運搬費用、ジェノタイプ測定に費やす費用が予想よりは安価であった。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は収集する保存血清がさらに増加し、ジェノタイプ測定、遺伝子変異解析の検体数が増加するため使用額が増加する予定である。
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