研究課題
本年度は、既知の遺伝子変異、メチル化の状況、染色体異常の包括的解析から肝癌組織を分類し、背景の臨床病理学的因子と比較し、生物学的悪性度の高いサブグループの抽出を試みた。125例の肝癌切除組織を用い、以下の解析を行った。(1)肝癌の代表的な遺伝子変異であるCNTTB1遺伝子、p53遺伝子、TERTプロモーターの変異の解析、(2)肝癌で高メチル化が報告されている8種の癌抑制遺伝子プロモーターメチル化の定量、(3)3種のDNA繰り返し配列の脱メチル化の定量、(4)200種のマイクロサテライト領域における染色体コピー数変化の解析。上記の結果を基に、対応分析とクラスター解析により、肝癌をA1, A2, B1, B2の4種のサブグループに分類した。この内、サブクラスA1、B1に分類される例ではHBV陽性、腫瘍マーカー高値、脈管侵襲あり、中~低分化の割合が有意に高かった。サブクラスA1、B1に共通して認められる変化は、CNTTB1遺伝子変異なし、p53遺伝子変異あり、繰り返し配列における脱メチル化進行、及び広範囲な染色体異常であった。次に25例の肝癌肝移植例を用い、移植後の肝癌再発と遺伝子、染色体変化との関連を解析した。上記の肝癌切除例での解析を基に、CNTTB1遺伝子変異なし、p53遺伝子変異あり、繰り返し配列における脱メチル化進行、及び広範囲な染色体異常の有無により、上記の変化が2種以下の群と、3種以上の群に分け、Kaplan-Meyer解析を行った。上記の変化が3種以上の群では、有意に肝癌再発までの期間が短かった(p = 0.048)。なお肝癌移植後の再発例は全例肝外再発であった。上記の結果より、CNTTB1遺伝子変異なし、p53遺伝子変異あり、繰り返し配列における脱メチル化進行、及び広範囲な染色体異常は、肝癌の転移再発を予測する因子になりうることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
上記で記載したように、CNTTB1遺伝子変異なし、p53遺伝子変異あり、繰り返し配列における脱メチル化進行、及び広範囲な染色体異常の組み合わせが、肝癌転移再発のリスクであることを明らかにした。現在は、さらに肝癌再発転移に関わる遺伝子変異の絞り込みを行っている。具体的には、上記の肝癌症例のうち、56例ではHumanMethylation450 BeadChip arrayを用いたmethylomeの解析、及び、Ion AmpliSeq Comprehensive Cancer Panel上の、次世代シークエンサーを用いた409遺伝子の遺伝子変異の解析をすでに終了している。またデータベースで公開されている情報を参照し、ヒト胎児肝と成人肝でメチル化、発現に差をある遺伝子を抽出し、それらの遺伝子群の遺伝子メチル化の変化を肝癌で定量化し、胎児肝に似たメチル化、遺伝子発現パターンを示すサブグループを絞り込んでいる。同様の症例で、肝癌幹細胞マーカーであるEpCAM, CK19, SALL4の免疫染色にて発現解析も終了し、これらの胎児肝の性質を示す肝癌は肝幹細胞マーカーを発現し、転移再発を来し易く、予後不良であることも見いだしている。現在、症例数を増やして解析している。また、詳細なクロモゾーム変化に関しては、現在解析中である。
25例の肝癌肝移植例の癌組織を用い、術後に肝外転移で再発した例、および肝癌肝移植後で4年以上の無再発例のエピゲノム変化をmethylome解析にて検討する。両者の間でメチル化レベルに差のある遺伝子を明らかにする。同様に、肝癌の肝移植例で、術後に肝外転移で再発した例の染色体変化を検討し、転移を生じた肝癌での共通変化領域を求める。同様の解析を4年以上の無再発の肝癌肝移植例で行ない、転移を生じた肝癌にユニークな異常染色体領域を求める。さらに125例の肝癌の治癒切除検体を用い、上記で選択した異常染色体領域、および異常メチル化を示す遺伝子の内で、治癒切除後の早期再発と相関する変化をさらに絞り込む。これにより、肝癌根治治療後の転移再発と関連する遺伝子変化を絞り込む。加えて、データベースを参照に、胎児肝特有の遺伝子メチル化パターン、遺伝子発現パターンを抽出し、ヒト肝癌の網羅的メチル化解析、遺伝子発現解析から胎児肝の性質を持つ肝癌を遺伝子メチル化と発現パターンから絞り込む。これらの胎児型肝癌の遺伝子変異、クロモゾーム変化のパターンを明らかにし、転移再発との関連を検討する。
肝癌組織の追加症例の解析に関して、次世代シークエンサー用のサンプルの調整が不十分であり、調整をやり直したこと、そのためにシークエンサー用試薬の発注、ライブラリ調整用の試薬類の発注が年末、年始の時期にあたり納品が遅れたために次年度使用額が生じた。
次年度使用額は、当初の予定のとうり、次世代シークエンサー用のサンプルの調整用、シークエンス用の試薬に当てられる。また、本研究の施行に必要な抗体類の購入に当てられる。これらはすでに発注しており、次年度の早い段階で使用される。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (13件) (うち査読あり 13件、 オープンアクセス 13件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 図書 (1件)
Dig Dis.
巻: 34 ページ: 708-713
10.1159/000448863
巻: 34 ページ: 702-707
10.1159/000448860
Dig Dis
巻: 34 ページ: 687-691
10.1159/000448857
巻: 34 ページ: 671-678
10.1159/000448834
巻: 34 ページ: 659-664
10.1159/000448828
巻: 34 ページ: 654-658
10.1159/000448826
巻: 34 ページ: 650-653
10.1159/000448865
巻: 34 ページ: 632-639
10.1159/000448824
巻: 34 ページ: 620-626
10.1159/000448822
World J Gastroenterol.
巻: 22 ページ: 6917-24
10.3748/wjg.v22.i30.6917
Liver Cancer
巻: 5 ページ: 175-89
10.1159/000367765
Therap Adv Gastroenterol.
巻: 9 ページ: 483-94
0.1177/1756283X16644248
J Gastroenterol Hepatol.
巻: 31 ページ: 1646-53
10.1111/jgh.13318