研究課題
B型肝炎ワクチン接種者のうちの約10%はその中和抗体であるHBs抗体を獲得できないという問題があり、その原因は分かっていなかった。そこでB型肝炎ワクチンに対する応答性に関連するホスト側遺伝要因の同定を目指して、成人日本人1,193例を対象としたゲノムワイド関連解析(GWAS)を実施した。ワクチン低反応群(107例)、ワクチン中反応群(351例)、ワクチン高反応群(735例)の3群に分けて比較をした結果、HLA class II領域に存在するDRB1-DQB1遺伝子とDPB1遺伝子がそれぞれワクチン応答性に関連することを明らかにした。また、ワクチン低反応群と高反応群を比較した結果、HLA class III領域に存在するBTNL2遺伝子が有意な関連を示した。続いて、ゲノムワイドSNPタイピングデータを用いてHLA imputation法によるHLA遺伝子型の推定を行い、HLAアリルおよびハプロタイプとB型肝炎ワクチン効果との関連を詳細に解析した。HLAアリルおよびハプロタイプの頻度をワクチン低反応群とB型慢性肝炎患者群で比較した結果、B型肝炎ワクチンの応答性に特異的に関わるDRB1-DQB1ハプロタイプが存在することを見出した。さらにワクチン高反応群と健常対照群について同様の比較を行った結果、HLA class II遺伝子(DRB1-DQB1、DPB1)はワクチン高反応に関連を示さなかった。ワクチン高反応群と低反応群のGWASでBTNL2遺伝子が検出されたことから、BTNL2遺伝子はワクチン高反応に関わっていることが示唆された。この研究の成果をもとに、国際共同研究を進めることで、ユニバーサルワクチネーションが行われている日本やその他の国において、B型肝炎ワクチンの適正かつ効率的な使用方法の確立が期待できる。
2: おおむね順調に進展している
研究実績の概要に記載したB型肝炎ワクチン応答性に関するGWASの成果を論文報告した(Nishida et al. Hepatology, 2018)。また、日本人B型慢性肝炎患者群を肝発がんの有無で2群に分けたGWAS、香港人とタイ人のB型肝炎患者群を対象としたReplication解析を実施した結果、HLA class I遺伝子領域に存在するSNPが有意な関連を示すことを見出し、論文報告した(Sawai, Nishida, et al. Sci. Rep., 2018)。さらにHLA-DPB1アリルの頻度を肝がんを有するB型肝炎患者群、肝がんを有さないB型肝炎患者群、健常対照群の3群で比較した結果、特定のDPB1アリルが肝発がんの抑制因子であることを見出した(投稿論文準備中)。特定のDPB1アリルをホモで有する肝がん症例および肝がんを有さない慢性肝炎症例を対象としてHBV-DNA塩基配列決定を行い、肝発がんに関連するウイルス因子の探索を行った。その結果、肝発がんに関連する特徴的なアミノ酸配列を同定した(投稿論文準備中)。
【ホスト因子の探索】これまでに取得したB型慢性肝炎を対象としたGWASデータを用いてSNP imputationを実施し、新たな宿主側遺伝因子の探索を進める。SNP imputationデータを用いたGWASにより見出される候補遺伝子領域のSNPを対象として、日本人やアジア人集団を用いたReplication解析を実施する。また、慢性肝炎に関連するHLAアリルやハプロタイプを共変数に入れたRegression解析を実施し、新たな宿主側遺伝因子の探索を進める。【ウイルス因子の探索】日本全国の共同研究施設から生体試料の収集を継続し、特に肝がん症例を対象としてHLAタイピングを実施する。肝発がんに関連する特定のHLA-DPB1アリルをホモで有する肝がん症例を見出した場合には、HBV-DNA塩基配列決定作業を進める。取得したHBV-DNA配列から肝発がんに関連するウイルス変異の探索を進める。
すべて 2018 2017 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Hepatology
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1002/hep.29876
Liver Int
巻: 37 (10) ページ: 1476-1487
10.1111/liv.13405
https://www.amed.go.jp/news/release_20180323.html