研究課題/領域番号 |
16K09389
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
大西 洋英 自治医科大学, 医学部, 非常勤講師 (00313023)
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研究分担者 |
眞嶋 浩聡 自治医科大学, 医学部, 教授 (10261869)
三浦 光一 秋田大学, 医学部, 特任講師 (90375238)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 急性膵炎 / オートファジー / rab7 |
研究実績の概要 |
急性膵炎の発症・進展におけるオートファジーの関与の分子機序解明のため、オートファゴゾームがリソソームと融合してオートリソソソームに成熟するオートファジー過程に機能する低分子GTP結合蛋白であるrab7の膵腺房細胞特異的ノックアウトマウスを作成し(以下:KO マウス)解析した。24時間絶食惹起によるオートファジーを野生型コントロールマウス(以下:wild マウス)と比較した結果、KO マウス膵ではwildマウスに比べオートファジー活性マーカーであるLC3-II発現が増強すると同時にその基質であるp62の発現も増強しており、KOマウス膵でオートファジー不全が生じていると考えられた。またKOマウス膵では絶食により腺房細胞に多数の空胞形成がみとめられ、電子顕微鏡観察にてKOマウス膵で認められるこれらの空胞の多くはオートファゴゾームであり、オートリソソームは僅かであった。以上からKOマウスの膵に認められるオートファジー不全はオートファゴゾームからオートリソソームへの成熟過程が障害されるためであることが明らかとなった。次に、腹腔内にセルレインまたはL-アルギニンを投与することにより急性膵炎を惹起すると、KOマウスにては組織傷害スコア、血清アミラーゼ値、膵内トリプシン活性すべてがwildマウスに比べ優位に上昇しており、KOマウスにおいてはwildマウスに比べ急性膵炎が悪化していることが明らかとなった。更にその悪化機序を蛍光免疫染色などにて解析したところ、急性膵炎発症wildマウス膵において形成される細胞内空胞はオートリソソームの特徴を有していたが、KOマウス膵にてはオートリソソームの特徴を示すものが少なく、rab7欠失によるオートファジー不全が急性膵炎悪化に関与していると考えられた。以上よりrab7は急性膵炎に対してオートファジー機能を介して抑制的に機能していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的は、急性膵炎発症・進展の分子機構におけるオートファジーの関与とその分子機構を明らかにすることである。平成28年度の研究においては、オートファジー過程の後期ステップであるオートファゴゾームからオートリソソームへの成熟段階に機能するrab7蛋白に着目し、その膵臓腺房細胞特異的ノックアウトマウス(以下:KOマウス)を用いてrab7の急性膵炎における役割を解析した。その結果、KOマウス膵においてはオートファジーにおけるオートファゴゾームからオートリソソームへの成熟不全が生じていることを確認の上、そのマウスに急性膵炎を惹起すると膵炎の炎症が著明に悪化することを明らかにし、更にその悪化原因もrab7ノックアウトによるオートファジー不全であることを見出した。当初の本研究計画においては、KOマウスにおける急性膵炎の各種解析は平成29年度に行う予定であった、しかし、予想以上にその解析実験が順調に遂行でき、上記のような知見を得ることができた。更にこれらの成果はScientific Reports誌に投稿し既にアクセプトされ現在 in pressの状況である。またこれらの成果を日本消化器病学会の主題演題として報告したこともあり、この成果は社会的にも注目されており新聞社からの取材も受けている状況である。以上のことから、3年計画の本研究において初年度にてここまでの研究成果をあげたことは、本研究は当初の研究計画以上の進展をしていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでのrab7ノックアウトマウスの解析にて、セルレイン腹腔内投与によって惹起された急性膵炎においてはrab7ノックアウトマウスにおける膵内トリプシン活性が野生型マウスに比べ顕著に上昇していることが明らかになった。このことはrab7ノックアウトマウスにおける急性膵炎の悪化に膵腺房細胞の酵素顆粒(zymogen granule)の機能が深く関与していることを示唆する。一方、これまでの解析においては24時間絶食による生理的オートファジー惹起においてrab7ノックアウトマウス膵においてオートファゴゾームからオートリソソームへの成熟過程が障害されていることを示し、rab7が膵臓腺房細胞のオートファジーにて重要な役割を担っていることは明らかにしたが、rab7の膵臓腺房細胞におけるその他の生理機能は未だ不明である。よって、rab7ノックアウトマウスにおける急性膵炎悪化の更なる機序を明らかにしてゆくために、今後の研究においてはrab7の膵臓腺房における生理的機能の解析に立ち戻りその検討を推進したい。特に上述のようにrab7ノックアウトマウスにおける急性膵炎の悪化に膵腺房細胞の酵素顆粒の機能が深く関与していることが示唆されたことから、rab7が膵臓腺房細胞の酵素顆粒動態において機能しているか否かなど酵素顆粒とrab7との関連に着目して研究を推進してゆく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
残額300,866円の内、866円は研究代表者大西が使用予定であった研究費であるが、残額が小額のため当該年度に使用困難であった。一方残りの300,000円は研究分担者の秋田大学 三浦光一先生への配分研究費である。三浦光一先生は平成29年4月より自治医科大学に移動が決定していたため、研究を円滑に遂行するためには三浦光一先生が自治医科大学に移動後に研究費を使用することが最善と考えられたため、平成28年度には使用を留保した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度の大西の研究費残額の866円は平成29年度の研究費用と合算して平成29年度の研究に使用する。また三浦光一先生は平成29年4月1日から自治医科大学に移動されているため、平成28年度に使用を留保した300,000円は平成29年度に自治医科大学において研究に使用する。
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