A.ヒト膵癌におけるNotch/Hes1シグナルの発現および機能解析 膵癌は多数の遺伝子異常の蓄積により、化生性変化(ADM)、前癌病変(PanIN)を経て、多段階に浸 潤癌へ至る。本研究ではヒト膵癌切除標本、あるいはヒト膵癌細胞株を用い、Hes1を中心とした種々のNotchシグナルの構成因子の発現、および機能解析を行った。これにより、ヒトADM-PanIN-浸潤癌、あるいはヒト膵癌細胞株におけるNotch/Hes1シグナルの高発現が確認された。また、ヒト膵癌細胞株を用いた検討により、膵上皮細胞において変異KRASがHes1の発現を誘導することが明らかとなった。 B.マウス膵癌前癌病変~膵癌の形成における Notch/Hes1シグナルの機能解析 Ela1-CreERT2マウスと、Cre誘導性に変異KRAS遺伝子を発現するマウスとの交配 (Ela1-CreERT2;KRASG12Dマウス)、さらにはCre誘導性に変異TP53遺伝子を発現するマウスとの交配(Ela1-CreERT2;KRASG12D;TP53R172H マウス)により、膵癌マウスモデルを作成した。本モデルとHes1 flox マウスとの交配により、Hes1 遺伝子のノックアウトが、mPanINあるいは膵癌の形成をほぼ完全に抑制することが観察された。lieage tracingを用いた解析により、Hes1遺伝子ノックアウト下では、ADMよりPanINへの進行が阻止されることが示された。 C.Hes1をターゲットとした新規膵癌治療法の探索 ヒト膵癌細胞株、あるいはこれを用いたマウスXenograftモデルに対する新規Hes1阻害剤により、部分的ではあるが腫瘍の縮小効果が確認された。
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