研究実績の概要 |
膵がん細胞株に対し、HDAC class IIa選択的阻害剤TMP269が濃度依存性に細胞増殖抑制効果を有する事をMTTアッセイにより確認した。細胞増殖抑制効果の機序を検討したところ、TMP269ではG1アレストが引き起こされている事が認められ、HDAC class II 選択的阻害剤では、アポトーシスではなく、細胞周期抑制を介した 抗腫瘍効果をもたらしている事が示された。次に細胞周期抑制の機序を検討したところ、TMP269治療群では、G1周期に関するCDK2, 4, 6, Cycline D および Eの発現がいずれも低下しており、これらの発現低下によるG1→Sへの移行が抑制された為と考えられた。 さらに、TMP269によるG1周期抑制効果の機序を検討した。HDAC class IIaが主に転写調節因子に関与することから細胞周期に関与する転写調節因子をPCR arrayにより検討したところ、TMP269によりCDK等の上流に位置するFOXO3aの発現が亢進していることが示された。gene expression profiling dataの解析により、膵癌では、FOXO3aの発現が抑制されており、低発現が予後に影響を与えている可能性が示され、TMP269により抑制されたFOXO3aの発現亢進を介して細胞周期に関与し、細胞増殖抑制効果を示したものと考えられた。膵がん細胞は、多くが、p53の遺伝子変異を有しており、その下流のCD K阻害作用を有するp21の発現が抑制されている。p21について、検討したところ、TMP269により発現の亢進が認められ、HDAC class IIa 阻害によりp21の誘導が細胞増殖抑制効果をもたらしたと考えられた。さらにこの効果は、P53 null細胞株であるAsPC-1 においても認められた事から、P53非依存的にもたらされていると考えられた。
|