S100gは主に十二指腸に発現しているタンパクである。mRNAレベルでは膵臓にも発現しているが、蛋白レベルでは免疫染色においてもウエスタンブロットにおいても膵臓に発現はみられなかった。コレシストキニンのアナログであるセルレインを複数回投与して実験的膵炎を惹起すると膵臓における発現が増加し、蛋白レベルでも同定できるようになった。つまり、急性膵炎反応によって膵臓に発現が誘導された。そして、コントロールマウス、S100gノックアウト(KO)マウスを比較すると、膵炎反応はS100g KOマウスで軽減していた。血清アミラーゼの上昇に差はなかったが、膵組織中のトリプシン異所性活性化はS100g KOマウスで抑制された。 ラット膵腺房細胞癌由来のAR42J細胞は膵外分泌モデルとして使用されている。この細胞にS100gを過剰発現させた細胞(AR42J-S100g)を樹立した。コレシストキニン(CCK-8)刺激によるアミラーゼ分泌の変化、fura-2を用いた細胞内カルシウム濃度[Ca2+]iの変化をコントロール細胞(AR42J-GFP)と比較検討した。100pM CCK-8による分泌刺激において、AR42J-S100gではアミラーゼ分泌が抑制され、[Ca2+]iの上昇も著明に抑制された。 これらの結果から、過剰なCCK-8刺激においてS100g は[Ca2+]i の上昇にブレーキをかける働きをしているが、S100g KOマウスではその上昇にブレーキがかからず、外分泌が亢進したままの状態となる。そのため、細胞内のトリプシノーゲン量が少なくなり、細胞内での異所性活性化が抑制され、S100g KOマウスでは膵炎反応が軽減したものと考えられる。但し、これは仮説であり、検証が必要である。マウスの生体内でのCa2+シグナルのモニタリングは難しく、年度内に証明することが出来なかったのが残念である。
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