研究課題/領域番号 |
16K09404
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研究機関 | 国立研究開発法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
佐々木 一樹 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 室長 (80260313)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 膵腺癌 / ペプチド / 限定分解 / 質量分析 |
研究実績の概要 |
ペプチド配列を効率よく同定できる唯一の方法が、液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC-MS/MS)である。分泌タンパク質や膜タンパク質が特異的に切断を受ける部位を同定するには、分子量3000以上のペプチドの配列の決定が重要で、この点は従来のボトムアップ型プロテオーム解析とは異なる点である。試料調製とともに、測定パラメータの最適化が重要で、初年度はその点について検討をすすめた。現在は、一回の測定で約1200の配列を決定できるようになり、そのうちの約半数が分子量3000を超えるようになった。 初年度は、本邦で近年樹立された膵腺癌培養細胞株を対象に、細胞が細胞外に放出するペプチドをそのままの形で液体クロマトグラフィータンデム質量分析法によって、配列を決定した。同定されたペプチドは、約450種類のタンパク質から由来し、シグナルペプチドをもつタンパク質は6割以上であった。分泌タンパク質については、膵癌で産生が知られているエンドセリン、アドレノメジュリンなどの既知のプロセシング部位が追認された。また、膜タンパク質に関しても、既報の細胞外ドメインシェディング部位、細胞膜内切断部位が同定され、試料調製ならびに分析方法の妥当性が確認された。本細胞は、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)1、MMP7、膜型セリンプロテアーゼ1などを多量に発現し、細胞外マトリックス以外の膜タンパク質で、ephrin とその受容体などをはじめ、これらの酵素で切断されたことが示唆される切断部位が多数同定された。これらに加えて、消化器系の腺癌で多く発現する膜タンパク質の限定的な切断部位も同定された。今後は、臨床材料との比較により、膵癌に特徴的な切断部位の同定を目指す計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の計画である分子量が大きなペプチドの自動測定による配列決定の最適化について一定の成果を得ることができている。
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今後の研究の推進方策 |
プロファイリング条件の最適化の後に、膵癌細胞株に加えて下記のような培養系の上清を調べ、膵癌との質的・量的な差異を検討する。 ①膵癌細胞と相互作用する非腫瘍細胞の解析 腫瘍細胞を囲む正常細胞の条件培地が、腫瘍細胞の形態や増殖に影響を与えることが知られている。既知のサイトカイン以外に、申請者が対象としている切断を受けた分泌タンパク質・膜タンパク質が関与している可能性があり、腫瘍関連線維芽細胞、膵星状細胞の初代培養系の上清を解析する。 ②膵管上皮細胞培養系の解析 膵癌の発生母地とされる膵管上皮細胞の培養系を利用する。膵管内乳頭粘液性腫瘍、膵腺癌の手術材料よりhTERTで限定的な継代を可能とした培養系の培養上清を解析する。膵管上皮の系は初代培養が理想的だが、上記のように無血清条件での回収が困難な場合は、膵管上皮細胞を不死化した細胞株の上清を用いる。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度内の後半に依頼した高速シークエンサー解析(25万円)の納品が年度内に間に合わなかったこと、以前に調製した試料ならびに消耗品を使用することができたことが主な理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
2年次目には研究計画の進行とともに使用する計画である。
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