研究実績の概要 |
生体内で切断されて活性化する分泌タンパク質あるいは膜タンパク質は治療・診断の標的になりうる。本研究では、質量分析・ペプチドミクスの手法を用い、膵腺癌を対象に、そのようなタンパク質とその切断部位を同定している。ペプチドミクスの手法によるこのような同定法で要となるのは、分子量3,000を超えるペプチドの同定効率を高めることである。現在は、同定できる最大長のペプチドは、11,000 Daであり、全同定数の半数以上が分子量3,000を超えるようになってきている。本研究では、本邦で樹立され、血清依存性の低い膵腺癌2株の培養上清を重点的に解析し、その対照として不死化した膵管上皮の細胞株の培養上清の解析を実施した。現在までに、約50種類の分泌タンパク質・膜タンパク質が、膵管上皮細胞株に比較して発現が亢進していることを明らかにした。約3割については、既報の切断部位が同定できており、個別的ではなく、体系的な同定を可能にする本法の有効性が示された。また、数種類のタンパク質は、癌細胞で一般的に活性が亢進しているプロテアーゼで特異的な切断を受けたと推定される切断部位を有していることが明らかとなった。今後は、文献的調査を含め、膵腺癌に特徴的な切断を受けるタンパク質の選定を進めていく計画である。
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