研究実績の概要 |
細胞外の特定のアミノ酸の部位で切断される分泌タンパク質あるいは膜タンパク質は治療や診断のよい標的となる。我々は、ゲル電気泳動での分離と検出が十分とはいえない分子量10,000 Da未満のペプチドを体系的に解析するペプチドミクスの手法の確立に努めてきている。特に、本研究では、これまでの質量分析の分野では困難であった分子量3,000 Da以上のペプチドの配列特定の課題に取り組み、培養上清に放出されるこの分子量領域のプロファイルを取得することで、分泌タンパク質または膜タンパク質のプロセシング部位の特定が可能になることを示しつつある。 本研究では、膵腺癌が培養上清に放出するペプチドを対象として、液体クロマトグラフィ・タンデム質量分析を活用するペプチドミクスの手法を用い、膵腺癌の分泌タンパク質または膜タンパク質が特定位置でプロセシングされる部位の同定を進めた。日本で樹立されて継代数の少ない膵腺癌細胞株2種類、膵腺癌の発生母地とされる膵管上皮の樹立細胞株1種類を用い、無血清培養上清に放出されるペプチドのプロファイリングを進めた。膵腺癌での分泌が既知の生理活性ペプチドであるエンドセリンの活性分子型や、膜タンパク質アミロイドβタンパク質の細胞外、細胞膜内での特異的切断部位が特定され、このアプローチの有効性が示された。また、細胞外領域の切断現象自体が知られていないか、あるいは切断部位が特定されていなかった細胞接着因子、受容体型チロシンキナーゼなどの膜タンパク質も特定された。より深達度の高い解析を進めることにより、膵癌の診断や治療の標的となる膜タンパク質とその切断部位が特定されることが期待される。
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