研究実績の概要 |
急性の心筋傷害時には活性酸素に関わる鉄の処理が組織修復には重要であるとの最近の知見から、本研究において我々は様々な心筋疾患における鉄の動態を調べた。これによって、鉄(ヘモジデリン沈着)分布の差によって近年行われている肝臓の磁気共鳴画像(MRI)診断が、種々の心疾患の診断にも有用になるのではないかとの仮説について基礎的検討を行った。超常磁性酸化鉄(リゾビスト)を投与しなくとも、右室負荷モノクロタリンラットモデルおよび巨細胞性心筋炎ラットモデルでは急性期から慢性期にかけて、心臓に存在するマクロファージと思われる細胞にヘモジデリンの沈着が散見された。しかし、心筋疾患が疑われ心内膜生検が行われた22例(急性心筋炎 3例, 拡張型心筋症 10例, 肥大型心筋症 2例, 拘束型心筋症 1例, 虚血性心筋症 1例, 心サルコイドーシス 1例, 心臓弁膜症 1例, 筋ジストロフィーに伴う心筋疾患 1例, 産褥心筋症 1例, 高血圧性心筋症 1例)ではヘモジデリンの沈着は見られなかった。そこで、超常磁性酸化鉄の投与によって正常心と病的心の差異を明確にする方法として、鉄の投与量を検討した。鉄含量として、400 mg/kgの投与では、正常の心臓でもヘモジデリンの沈着がみられたが、12 mg/kgの投与では正常の心臓では沈着が見られず心筋炎ラットの心臓におけるヘモジデリンの沈着が無投与のときよりも増加していた。病的心の局所ではマクロファージによる鉄処理が少なからず生じていると考えられ、そこに適当量のリゾビスト投与によりヘモジデリン含有のマクロファージをさらに際立たせることによって、有用な心疾患のMRI画像診断が可能になるのではないかと考えられた。
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