研究課題/領域番号 |
16K09453
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
天野 篤 順天堂大学, 医学部, 教授 (70338440)
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研究分担者 |
松下 訓 順天堂大学, 医学部, 准教授 (20407315)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 炎症 / 心筋梗塞 / 幹細胞治療 |
研究実績の概要 |
本年度はこれまでに行ったマウス心筋梗塞モデルでの各部位(梗塞巣、梗塞周囲巣および遠隔部位)において、どの領域でいつ炎症が最も活性化されるかについての組織学的な最終評価を行った。この結果からは本評価で測定した炎症性サイトカインの発現はすべて梗塞巣に近いほど高く、それぞれのピーク値とそのポイントは、TNFα = 14.5 (d1)、IL-1β = 206.1 (d1)、IL-6 = 315.4 (d1)、IL-8 = 69.4 (d1)と急性期に上昇しその後急激に低下したのに対し、IL-2 = 25.1 (d14)、 IL-10 = 19.4 (d7)であり、IL-2は上昇が遷延しピークは14日であった。IL-10は5日目から上昇しその後14日目も上昇が続いた。血管マーカーであるvWFはd5から大きく上昇し、14日目にも増加傾向であった。PECAM-1も同様にd5でピークであった。VEGFはこの観察期間では有意な上昇を示さなかったがVEGF-R2はd5で軽度上昇がみられた。Collagen-1はd3に上昇をはじめd7がピークであった。心臓由来ホルモンであるBNPはd1で9.3であったのに対し、ANPはd7で7.7とそのピークに大きな違いが見られた。なおANPは心房で心室の40倍の発現が見られた。これらのことから、以下のことが推察された。①心筋梗塞後の組織炎症は1-2日目がピークでありその後は収束する一方、継続して炎症を引き起こす機序もあること、②血管新生は5日目から起こり、同時期に抗炎症性サイトカインの発現増加も見られたことから、このタイミングでの細胞投与が最も有効であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度はこれまでの結果を踏まえ実際の心筋梗塞モデルにおいて梗塞巣にリコンビナントタンパクを導入することにより治療効果にどのような影響を与えるかを検討する予定であったが、研究室の移転およびそれに伴う施設工事の影響で動物設備の使用制限があったため、予定を1年間延長し本年度はこれらのモデルを用いた検討を行うこととした。本年度前半は動物実験を中心に行い、後半はデータ解析及び学会発表、論文作成を行う予定である。このことから、研究の進め方としては大きな方向転換はなかったものの研究期間の延長を要したことで、やや遅延と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
前述のように、今後はこれらの炎症にかかわる因子の相互作用の検討を行い、炎症の機序を明らかにするとともに、この炎症をどのタイミングで抑制すべきか、また炎症のコントロールを行うことによりその後の心機能にどのような影響を及ぼすかの検討を行う。 これまで我々が用いている心筋由来幹細胞や末梢血由来幹細胞には心筋への直接分化能が低いかほとんど見られないものの、炎症性サイトカインを抑制するとともに、血管再生能力を高めることが知られている。これらの細胞を①炎症極期に投与、もしくは②抗炎症サイトカインが発現する際に投与することによりサイトカイン発現の動向にどのような変化がみられるかを再び遺伝子発現をもとに検証するとともに、心機能を小動物用超音波機器を用いて測定する。これにより、心筋傷害後の「炎症」が細胞および臓器におよぼす影響をより詳細に解明できるとともに細胞治療の最適介入時期の決定に寄与できると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用が生じた主な理由として、昨年は予定していた疾患モデルの検討が出来ず、その分の予算の残高があるため。今年度の使用計画は、どのタイミングで治療をすれば最も効果的な治療効果が得られるのかを明らかにするため動物モデルを用いて、これを評価し、その結果を学会発表および論文にまとめる予定である。
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