研究課題
平成28年度は、定量PCR法による血中miRNA発現解析のプロトコルを確立し、心房細動(AF)患者の血液検体を用いて病態と関連する複数の血中マイクロRNA(miRNA、miR)の発現を解析した。特に心房線維化がAFの病態に重要であり、線維化関連のmiRNA(miR-21/miR-26a/miR-29a/miR-133aなど)を中心に発現解析を行った。発作性AF、持続性AF、発作性上室頻拍症(対照群)の患者から心臓特異的な現象を反映する冠状静脈血(CS)と、臨床評価に用いる末梢血(中心静脈血、CV)を採取した。CSにおける血中miR-21、miR-26aの発現は、対照群と比較して発作性AF群で低下していた。また、血中miR-21、miR-26a、miR-29a、miR-133aの発現は、持続性AF群でも低下していた。一方、CVにおいては、発作性AF群で発現が低下するmiRNAは認めなかったが、血中miR-21、miR-26a、miR-29aは、対照群と比較して持続性AF群で発現が低下していた。このようにCSとCVでは血中miRNAの発現プロファイルが異なるものの、持続性AFで共通して変化している血中miRNAが存在し、バイオマーカーの候補となりうることが示唆された。平成28年度は、本結果を国内外の学会(日本循環器学会学会、米国不整脈学会、欧州心臓病学会など)で多数発表した。さらに、新規の候補miRNAの探索、血中miRNAによる病態評価の臨床応用を目指し、次世代シーケンサー(NGS)による解析にも着手した(大阪大学との共同研究)。NGSによる網羅的解析と、ターゲットを絞ったmiRNAのPCR法による定量解析とを平行させ、その結果を相互にフィードバックさせることで、より精度の高い評価法の確立と、迅速な実臨床への応用を目指す。現在も研究を鋭意継続中である。
3: やや遅れている
近年、大規模遺伝子解析研究は次世代シーケンサー(NGS)の登場により飛躍的に進歩した。そして、DNAのみならず、RNAシーケンシングも盛んに行われるようになった。NGSを用いた網羅的解析においては、各検体間のmiRNA存在量を標準化するため事前にスパイクインRNAを添加することにより核酸抽出、ライブラリ作成、シーケンシング工程でのバイアスをノーマライズすることが可能となり、マイクロアレイDNAチップ解析と比較して定量化にも優れるようになった。現在、NGSの汎用性が高いとは言えないが、近い将来コストダウンが図られ実臨床でも使用できるようになる可能性が高い。このためNGSは、網羅的解析による新規miRNA探索のみならず、複数のmiRNAの発現解析を用いたAFの病態評価の臨床応用に向けて極めて有用な手法と考える。NGSを用いて血中miRNA群のプロファイリングをおこないAFの病態を評価するという手法は現在まで報告がなく、新規性と独創性も極めて高い。研究当初は網羅的解析にマイクロアレイDNAチップ解析を用いる予定であったが、上記理由からNGSを用いた解析に変更した。NGSを用いた解析は年度後半から着手したこともあり多少研究の進行が遅れている。
現在も、線維化関連のmiRNAに加えて、炎症関連miRNA、イオンチャネル関連miRNA、Ca2+ハンドリング関連miRNAなど、AFの病態と関連する様々な血中miRNAの発現解析を行っている。AFの臨床指標による病態評価と、新たな候補となる血漿miRNAの発現との間に統計学的な有意差が認められるか否かを照合しながら、十分な検体数が整うように定量PCRを用いた発現解析を鋭意継続中である。さらに、新規の候補miRNAの探索、血中miRNAによる病態評価の臨床応用を目指し、次世代シーケンサー(NGS)による解析も着手した。平成29年度以降はNGSを用いた研究も発展させる。NGSによる網羅的解析と、ターゲットを絞ったmiRNAのPCR法による定量解析とを平行させ、その結果を相互にフィードバックさせることで、より精度の高いAFの病態分類法と心房リモデリング定量法の確立、実臨床への応用を目指す。そして、血中miRNA発現解析によるAFの病態分類や心房リモデリングの定量化によって、カテーテル心筋焼灼術によるAFの治療成績、AFの持続化/慢性化、AFに関連する合併症の発症などの予測が可能か否かを前向きに検討していく。また、生活習慣病(高血圧/糖尿病)・基礎心疾患(心不全)を持つAF予備群の患者において、AFの新規発症が予測可能か否かも前向きに検討していく。このような前向き臨床研究の結果をもとに、血中miRNAを用いた新たなAFの病態評価法の有用性を確認し、実臨床に普及させる。
平成28年度の研究計画では、PCR法による定量解析とマイクロアレイチップ解析を用いた網羅的解析を平行して行う予定であった。しかし、NGSを用いたmiRNAシーケンシングの方がマイクロアレイチップ解析より定量化に優れている。またNGSは将来的な実臨床への応用にとっても有用であることから、当初の計画を変更して年度後半からNGSの解析に着手した。解析に係る費用の一部は29年度に繰り越して支払う予定となったため、次年度使用額が生じた。
NGSの解析には相応の費用がかかるため、未使用額はその解析に係る費用として充填する予定である。
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