研究課題
平成29年度は、前年度から引き続き、心房細動(AF)患者と対照群の血液検体を用いて、定量PCR法による血中マイクロRNA(miRNA、miR)の発現解析を継続した。平成28年度は心房線維化に関連したmiRNAを中心に解析を施行したが、平成29年度は新たにAFにおける電気的リモデリング(イオンチャネルリモデリング)、炎症反応、カルシウム動態変化との関連が報告されているmiRNAの発現解析を行った(結果解析中)。定量PCRの結果に関しては、平成28/29年度で国内外の学会(日本循環器学会、欧州心臓病学会、米国不整脈学会など)で発表をおこなった。平成29年度は次世代シーケンサー(NGS)を用いた血中miRNAの網羅的解析に着手した(大阪大学との共同研究)。カテーテル治療を予定された発作性AF、持続性AF、発作性上室頻拍症(対照群)の患者から心臓特異的な現象を反映する冠状静脈血と、臨床評価に用いる末梢血の検体を採取した。NGSを用いてmiRNAを網羅的に解析し、845のmiRNAを検出した。予備解析として、持続性AFと対照群との間で発現量の差が大きかった上位30番目までのmiRNAを抽出した。冠状静脈血においてはmiR-26、miR-27、miR-133、miR-30などの既知のmiRNAに加えて、miR-20、miR-330、miR-204などの未報告miRNAも抽出された。この中で、miR-26、miR-20、miR-330、miR-204は末梢血においても持続性AFと対照群の間で発現量に有意な差を認めた。冠状静脈血と末梢血との間で共通の変化を認めたこれらのmiRNAが、AFの病態を評価するバイオマーカーの候補となりうることを見出した。現在もNGSによるシーケンシングと解析を継続中であるが、予備実験解析の結果を平成30年3月に開催された日本循環器学会総会で報告した。
3: やや遅れている
平成28、29年度において、AFの病態との関連が報告されているmiRNAにおいて定量PCRによる発現解析を行った。心房線維化関連のmiRNAの発現解析の結果に関しては、すでに国内外の学会で報告している。電気的リモデリング、炎症反応、カルシウム動態変化など、その他の病態に関連するmiRNAに関しては平成29年度から開始し、現在も実験解析を継続中である。さらに、NGSの結果で得られた新たな候補miRNA(未知のものを含む)に関しても定量PCRを用いた解析を開始した。これらの解析は平成30年度上半期までには終了予定である。NGSを用いた網羅的解析は、マイクロアレイDNAチップ解析と比較して定量化にも優れる。現在、NGSの汎用性が高いとは言えないが、近い将来コストダウンが図られ実臨床でも使用できるようになる可能性が高い。このため、本研究のような複数のmiRNAの発現解析を用いたAFの病態評価においては、NGSが臨床応用に向けて極めて有用な手法と考えた。さらに、NGSを用いて血中miRNA群のプロファイリングをおこないAFの病態を評価するという手法は現在まで報告がなく、新規性と独創性も極めて高い。研究当初(平成28年度)は網羅的発現解析にマイクロアレイDNAチップ法を用いる予定であったが、平成29年度から上記理由でNGSを用いた解析に変更し着手した。現在まで、対照群(発作性上室頻拍症)で冠状静脈血と末梢血各5検体(全10検体)、発作性AF群で各5検体(全10検体)、持続性AF群で各7検体(全14検体)のシーケンシングが終了した。現在もシーケンシングと解析を鋭意継続中であるが、予備解析の結果を平成30年3月に開催された日本循環器学会総会で報告した。当初の研究計画の手法と異なる実験手法を用いて解析を行っているため多少研究の進行に遅れが生じている。
平成30年度は、NGSによる解析と、ターゲットを絞ったmiRNAのPCR法による定量解析とを平行させ、その結果を相互にフィードバックさせることで、AFの病態評価に有用なバイオマーカーとなるmiRNAを特定する。そして、AFの臨床指標による病態評価と、バイオマーカーとしての血中miRNAの発現との間に統計学的な有意差が認められるか否かを照合し、精度の高いAFの病態分類法と心房リモデリング定量法の確立を目指す。我々は、NGSの網羅的解析で未だ機能的役割が報告されていないが、対照群とAF群で発現量に大きな差を認めるmiRNAも発見した。これらの、未知のmiRNAに関しても、定量PCRで再現性を確かめた上で、バイオマーカーの候補に含めるとともに、実験動物を用いた機能解析の準備を進めていく。同時に、血中miRNA発現解析を用いた新たなAFの病態分類やリモデリングの定量化によって、AFの治療成績の予測、AFの持続/慢性化の予測、AF関連合併症の予測、AF予備群である生活習慣病(高血圧/糖尿病)患者や心不全患者における新規AF発症の予測などが可能かどうかを評価するために、前向きに臨床試験の準備を進めていく。これらの研究結果をもとに、新たなAFの臨床病態評価法を実臨床に普及させる。
多少の残金については、引き続き次年度の消耗品に充てる予定である。
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