急性非代償性心不全で入院した患者を対象として前向きに登録を行い、入院時、退院時に便検体採取を行った。得られた検体から腸内細菌叢に対し16S rDNA系統解析を行った。細菌種の特定、存在比を計測し、各菌叢の類似度(相違の程度)の解析(UniFrac解析)を行った。得られた腸内細菌叢データを入退院時で比較検討した。11例での中間解析では入院時と退院後とで腸内細菌叢は大きく変化していることが確認され、腸内細菌叢の中でもFirmicutes門とBacteroidetes門の存在比は有意に低下した。さらに詳細な綱、目レベルではBacilli綱、さらにその下位に属するLactobacillales目の存在比が心不全治療後に有意な低下を示した。腸内細菌に由来するとされる血中短鎖脂肪酸濃度(酢酸、プロピオン酸、酪酸)を入院時、退院時で比較したが、全体としては血中短鎖脂肪酸濃度はいずれも有意な変動を示さなかった。入退院時での酪酸濃度の変化は同じく入退院時の体重の変化と逆相関し、酪酸濃度の上昇は浮腫の軽減、ひいては消化管うっ血の改善と関連している可能性が示唆された。また、プロピオン酸濃度の変化はFirmicutes門に属するGemellales目の変化と有意な正相関を示し何らかの関連が示唆された。 最終的には30例の便検体を収集した。心不全入院患者の入院前後比較での腸内細菌叢解析で、UniFrac解析の検定では細菌叢の全体的な構造に入院前後で有意差は認められなかった。しかし、Veillonella、WAL_1855Dの2菌種が退院時に有意にその割合の増加が認められた。また全体に、通常よりもStreptococcusの割合が非常に多い症例が多く見受けられ、心不全に対する薬剤や治療が影響している可能性が示唆された。
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