研究課題/領域番号 |
16K09470
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪国際がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
岡 亨 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪国際がんセンター(研究所), その他部局等, 検診部・精密健康診断科 副部長 (10332678)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 腫瘍循環器 / 心毒性 |
研究実績の概要 |
がん治療の進歩は高い治療効果をもたらす一方で、がん治療における心血管系の副作用(心毒性)は治療の大きな支障となるため、腫瘍循環器による介入が不可欠となっている。しかし、化学療法、特に分子標的薬による心毒性の発現の詳細やその機序についてはまだ十分解明されていない。本研究は大阪国際がんセンター腫瘍循環器科に受診するがん治療患者のデータベース化を進めることによって、がん治療に伴う心毒性のリアルワールドを明らかにし、分子標的薬の適正使用の基盤となることを目指すとともに、分子標的薬による心血管系への影響を様々な角度から解析し、心毒性の発症機序を解明することを目指している。 初年度は海外の腫瘍循環器の動向を調査するために米国ヒューストンのMD Anderson Cancer Centerで開催された第4回International Conference on Cancer and the Heart(November 4-5, 2016)に参加した。我々と同様に心毒性のデータを蓄積している段階ではあるが、米国心臓病学会(ACC)や欧州心臓学会(ESC)、カナダ腫瘍循環器ネットワークでは腫瘍循環器の分野においてすでに組織的に活発な活動をはじめており、我が国においても早急に腫瘍循環器領域の体制を整えなければならないと実感した。 昨年11月から12月に当センター腫瘍循環器科に新患としてがん診療科から紹介受診した患者は合計102名であり、引き続き登録、解析を進めているが、単施設ではデータ量は限られている。欧米の動向から腫瘍循環器領域において早急に多くのデータを集積する大きな組織が必要と考え、わが国の主要ながんセンターの循環器内科医による日本腫瘍循環器学術ネットワーク(Japan Onco-Cardiology Educational and Academic Network)を組織した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当センター腫瘍循環器科では、昨年11月から12月にがん診療科から新患として紹介受診した心血管疾患患者は合計102名であった。しかし、年度末に大阪府立成人病センターから大阪国際がんセンターへの新築移転等があり、データの集積、解析、基礎研究が滞ってしまった時期があり、やや遅れ気味と判断した。 本研究は当センターの腫瘍循環器のデータベース化を進め心毒性のリアルワールドを明らかにすることを目指しているが、将来的には全国レベルの組織作り、データの蓄積により分子標的薬をはじめとした抗がん剤の適正使用やわが国における腫瘍循環器のガイドライン作りを視野に入れている。しかし、欧州心臓学会(ESC)からすでに腫瘍循環器に関するposition paperが出版されたこと、米国ヒューストンのMD Anderson Cancer Centerで開催された第4回International Conference on Cancer and the Heart(November 4-5, 2016)では、腫瘍循環器の分野における米国心臓病学会(ACC)や欧州心臓学会(ESC)、カナダ腫瘍循環器ネットワークの組織的な活動だけではなく、米国心臓学会(AHA)や米国FDAも大きな関心を寄せていることを考えると、欧米に比べてわが国の腫瘍循環器領域は大きく遅れており、一刻も早く循環器関連学会のみならずがん関連学会と連携した組織作りを進めていく必要がある。我々は多くのデータを集積する目的でわが国の主要ながんセンターの循環器内科医による日本腫瘍循環器学術ネットワーク(Japan Onco-Cardiology Educational and Academic Network)を組織した。残念ながらまだ実質的な活動が始まっていないが、近い将来組織的な活動をスタートする予定である。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き腫瘍循環器科に対してがん診療科から紹介受診する心血管疾患患者のデータを蓄積していく。特に、分子標的薬を中心とした抗がん剤と心毒性、心機能、brain natriuretic peptide(BNP)との関係について可能な限り詳細なデータをとり、それらの関連性を明らかする。また、抗がん剤による心毒性を発症するがん患者は一部であり、同じ抗がん剤を用いても大多数のがん患者は心毒性を示さない。このように抗がん剤に異なる反応を示す2群間の違いに着目しており、まずは臨床データの差異を明らかにする。 細胞実験においては、がん治療心毒性モデルとして、心筋細胞とがん細胞との共培養系、あるいは、がん細胞培養上清を培養心筋細胞に添加する系を作成し、抗がん剤によるBNPの発現に関する解析を行う予定である。 本研究は当センターの腫瘍循環器のデータベース化を進め心毒性のリアルワールドを明らかにすることを目指しているが、今後、全国レベルの組織作り、データの蓄積により分子標的薬をはじめとした抗がん剤の適正使用法やわが国における腫瘍循環器のエビデンスの確立を視野に入れており、より多くのデータを効率よく集積する必要がある。わが国の主要ながんセンターの循環器内科医をネットワークで結んだ日本腫瘍循環器学術ネットワーク(Japan Onco-Cardiology Educational and Academic Network)を活用したデータ集積システムを確立し、腫瘍循環器のガイドライン作成へと展開したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、当初予定していたコンピューターソフトを変更したためと、施設移転に伴い基礎実験が滞ってしまったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
使用計画としては、購入したPCを使用し腫瘍循環器に関するデータを集積して解析する、基礎研究のために機器を整備し細胞実験を再開する、現在腫瘍循環器学の中心となっている欧米での欧州心臓学会(ESC、バルセロナ)とGlobal Cardio-oncology Summit 2017(ロンドン)に出席するための渡航費として使用する予定である。
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